展覧会
May 05, 2015
蕪村に惹かれる
仕事は大型連休中、通常の日月、プラス休刊日前の6日が休みになりました。
きのうは埼玉実家で１泊した後、埼玉実家→中村橋（練馬区立美）→下北沢（韓国食堂）→帰宅（明大前）→整骨院（同）→六本木（サントリー美）→氷川台（おだしや）→池袋（ミルキーウェイ）→帰宅。京王線定期どっち〜も（プラス数千円で明大前を終点に新宿、渋谷が行き来自由）のおかげでこんな野放図ができるのです（笑）
まずは練馬区立美術館で開催中、小林清親展。通覧してはっきり自覚したのは、自分が清親よりも彼の弟子、井上安治の作品のほうがずっと好きである、ということ。安治を題材とした、杉浦日向子さんの影響はもちろんありますが…それでも夜景の作品の美しさは本当に美しかった。
続いて六本木へ。
ぶっちゃければ、動機はミホ・ミュージアムの至宝、若冲の白象と鯨図屏風でした。滋賀の山奥から六本木のサントリー美術館に来ていただき感謝。
しかし、きょうのみどころは圧倒的に蕪村でした。以前、たまたま松濤美術館で出合った今回展示されていた国宝、「夜色楼台図」に通じる画題と賛の小品に深い感銘を受けました。そして本展で初めて多くの蕪村作品が一堂に会して接することができたことは大いなる幸運でした。
最初に感じたのは蕪村の文人ぶり。若冲が賛を当代の名筆に任せたのにたいし、蕪村は画と賛を共に手掛け、その賛にこそ作品の真髄を見る思いでした。そこにはユーモアや切実な希求心が溢れ、かつ、静謐さが基調を成しています。
おそらく若冲の芯には絶えなく燃える炎が、蕪村の核には山中の湖がひっそりとあるのではないか。同じくミホ・ミュージアムの至宝、蕪村の「山水図屏風」は、まさにその湖にかかっていた霧が晴れて見える情景そのものではないか。そう思うと、涙が止まりませんでした。
そうした幽玄を旨とした作品に圧倒される一方、「火桶炭団を」のユーモアと愛らしさにはほほが緩みます。若冲のケレンミは酩酊的感動を、蕪村の上智と叙情は胸の奥に染み渡りました。足を運べて本当に良かったです。
夜ご飯は幼なじみにつきあってもらい、彼女いきつけの練馬区氷川台にある「おだしや」というお店で創作おでんをいただきました。やさしい味付けで美味。かつ「サバサンド」も新鮮でよかった。デザートは池袋のミルキーウェイへ十数年ぶりで。
January 06, 2015
未にまもっていただく
お正月にはいろいろあったのですが、しばらく日記を書く習慣から遠ざかっていたので、リハビリで少々。
4日の日曜、東博へ。長谷川等伯の「松林図屏風」など見どころは多かったのですが、自分にって一番の収穫はこの拓本。
かっこいい
なにやら呪術的で干支の未（羊）。これは素晴らしいと、昨年からずっとXPERIAの待ちうけ写真を崇仁天皇陵にしていたのですが（↓）、変更することにしたのです。
奈良県天理市
で、あとからよくよく解説（↓）を読むと、なんと朝鮮の遺跡からの拓本ではないですか！ 自分は仕事での成果は始業・就業時に高麗神社様にお祈りしているのですが、図らずも朝鮮つながり。
記録しておいてよかった
韓国映画、K-POP、韓国料理、そして茶器をはじめとした朝鮮美術。いまの自分の多くを形成し、支えている大事な部分です。自分のルーツか、前世は、もしかして朝鮮人だったでしょうか。
November 30, 2014
てさぐる世界の在り方の多様性 秋田県立美術館、高嶺格・企画「てさぐる展」
先々週の土曜日（15日）、仕事で読んだ原稿で現代美術家、高嶺格（たかみね・ただす）さんが企画した美術展が開催されることを知りました。これも初めて知った、氏が秋田公立美術大の准教授に就任。秋田市の秋田県立美術館で「視覚障害者が案内する“てさぐる展”」（11月23日〜12月7日）を開く、と。高嶺さんの作品には4年前の六本木クロッシングで出合い衝撃を受け、著書を読み、昨年2月には水戸芸術館で開催された展覧会にも足を運びました（2011年の横浜美での展覧会は行こう行こうと思っていたら３・１１発災で叶わず）。即23日にＪＡＬのマイルで航空券、ホテルの予約を入れました。
・・・
１回45分、1日10ツアー。各回、視覚障害者が参加者を連れて展示品に触れ、感じるところを述べながら案内するという企画。始まってみるまでどんなものか分かりませんでしたが、その冒頭から衝撃的でした。初めに展示してあったのはミケランジェロの彫刻のレプリカ（ルーブル美所蔵）。下半身裸の青年が、恍惚とした表情をその顔に浮かべています。自分を案内してくれた煙山さんはその足に触れ、「力強い青年がこれから跳躍しようとしているように感じます」と話されました。
そして煙山さんが観客にどんな風にしていますかと問われたので、自分は恥ずかしくて恍惚としていますとはいえず、まどろんでいますと答えました。その後、様々な展示があり、そうしたやりとりが少しずつ交わされました。そして最後には、観客全員が善光寺の戒壇巡り方式で暗闇を歩き、千葉市の盲学校の生徒さんが制作した作品に触れ感想をいいあい、煙山さんがシャッターを切ってインスタント写真を撮影して終了しました。ほんとうにあっという間の時間でした。
・・・
まず、冒頭の彫刻作品は皆どこかで見たことがあるはずですし、見て、その感想をいうことは比較的容易です。しかしそれでも、自分は「恍惚としている」とはいえなかった。さらに続く作品は一見してその目的や用途が分かるものではなく、見えているからすぐ感想が浮かぶものでもありません。視覚中心の、触覚中心の感覚と区別することに実はもう意味がなくなることに気付きます。この世界を、自分が中心に置いている尺度とは別に測ることはいくらでも可能で、価値観の在り方は多彩である、ということを改めて感じました。
・・・
自分が実話怪談が好きなのも、この世界は多様性に満ちている証明がそこにあるからだと常日頃感じています。まさに今回の展覧会でもそうしたことを感じました。目に見えるものがすべてではない。放射性物質も目に見えません。政治の実態も目には見えません。人の心も目には見えない。サン・テグジュペリの言葉を引くまでもありません。こうした経験を、観念ではなく実体験として感じられたのが本展。体験後に直接お話させていただいた高嶺さんは、展示というよりライブイベントとしての側面があるのでなるべく会場に足を運びたいと語ってくださいました。ぜひ多くの皆さんに体感してほしいです。
November 25, 2014
暗闇から生まれたムーミン 「トーベ・ヤンソン展」（横浜・そごう美術館）
ムームンはもちろん昔から知っていましたが、その魅力に改めて気付かされたのは雑誌「Mei（冥）」vol.2での特集を読んでからです。いわゆるダーク・メルヘンとは違う、けれどぬぐいがたいほどの怪しさ。人界とあの世の境界を示す川の向こうに住むムーミン一家。おもえばアニメ版ムーミンの声は岸田今日子さんでした。どうして亡くなってしまったのか…さびしい。
実際きょう、「トーベ・ヤンソン展」（横浜・そごう美術館）で観た彼女の抽象画の暗闇は、同じ北欧のムンクほど人の深奥をえぐるものではないけれど、色彩豊かな作品と共に魅力をもっていました。ただ、一級品かといえばそうではなく、同時代の波のなかで描かれた作品程度かな。
１１月３０日まで
しかし、いったん彼女がムーミン世界を描くとその筆致はオリジナリティーを発揮し、その絵としての構図の美しさはもとより、生き生きといたキャラクターたちの個性に結晶しているようです。第二次世界大戦のなかで描かれ始めたムーミンは、強烈な「ここでない世界」への憧憬をカタチにしている。
会場に再現されたアトリエ
また、１０代なかばで政治風刺雑誌の挿絵に彼女の原点があるというのも納得でした。写真にあるとおり、自分が愛用しているトートバックと同じ絵の原画が展示されていたのですが、その大きさは数センチ四方。ちいさい画面にみっちとり世界観がつまっている。彼女の「不思議の国のアリス」「ホビットの冒険」も魅力的でした。もっと広く知られてしかるべき、と考えます。
みてみて！
おもったのは、ミッキーマウスが原色でべたべたとしているのに対し、ムーミン世界のやわらかな色は自然の色彩、淡い日の光の反映だと感じました。ミッキーが資本主義大好き！と叫んでいるなら、ムーミントロールは少しの冒険と、この自然、仲間と一緒に楽しくくらしたいとつぶやいているよう。余談ですが、うみうま、というキャラを初めてちゃんと認識し、ひとめぼれしました。
November 22, 2014
こんな日だからこそこんな日でした 東博、都美、笠井亮さん、味スタ、ウエアハウスガーデン
長野で震度６弱。やはり土砂崩れなどおきているようで、本格的な被害は夜が明けてからわかるのだと思います。どうか、被害が最低限でありますことを祈ります。
もうきょうの日記を書くのをやめようと思ったのですが、いつ自分も大地震でどうなるか分かりません。こんなときだからこそ、簡単にでも書かせていただきます。
きょうは有給休暇を頂き、昼間は埼玉・実家の母と上野へ。東京国立博物館で開催中、日本国宝展を訪れました。会場は非常に混んでいて大人気。車いすの母には不便なことですが、仕方ないですね。できれば障害者向けの鑑賞会など開いてくれればありがたいのですが。
母です
個人的には、鳳凰の図柄が刻まれた銅鏡（有名な福岡県宗像市沖ノ島出土）の美しさは呪術的な意味合い以上に胸に響き、犯した罪状によって責め苦の種類が違う「地獄草紙」はおもしろく、太刀国宗は冴えざえ、相国寺所蔵の玳玻天目に瞳孔が開き、李迪の「紅白芙蓉図」にはただただ嘆賞のため息が出るばかりでした。
その後、母の希望で都美で開催、「ウフィツィ美術館展」にも。卒業旅行で訪れた同美ですが、また是非、実際に訪れてみたいです。ただ本展はあまり人気のない宗教画大半で、自分には無縁のお話。仏文院生時代だったら喜んでみたでしょうが…・。ただ改めて思ったのはボッティチェリが描く聖母子像の主役は精気のない聖母子でなく、彼らを取り巻く少年天使たち。百合を掲げたガブリエルのドラマティカルなポーズ…。彼の視点が自ずと顕現していました。それにヴァザーリすごいし。
母と上野駅で別れ、味スタへ向かいました。１０月にSMタウンライブで初めて味スタに行って明大前から近いことを知り、さらに毎朝毎朝、井の頭線車内ＶＴＲ広告でＦＣ東京を見せられ、日本代表に武藤、森重、権田選手が選ばれているのもあり、で。ただ試合日は土曜日が多く、自分は仕事なのでなかなか行くことができず、やっときょう、初サッカー観戦が実現しました。
必勝！
味スタ最寄の飛田給駅に着くと、なんと日本共産党の前衆院議員、笠井亮さんが力強く、党のスポーツ後援会の皆さんと演説中。感激でした。そして、肝心な試合でありますが、試合開始直後に先制したものの、あとは終始、対戦相手のアルビレックス新潟に押されまくっていました。武藤選手も徹底的にマークされ、なかなかゴールがうてませんでした。
先制…も
それでも、サポーターの皆さんの息のあった掛け声や、いいプレーには拍手が起き、相手チームが反則グレーなことをすればブーイング、そしてＦＣ東京の選手がふがいなければ罵声が飛ぶ。まさか自分がスポーツ観戦をする日が来るとは思いませんでしたが、これは結構、おもしろい。野球と違いサッカーは終了時間も読めますし。ぜひ、また応援に行きたいです。
感動的な経験でした
そして締めは、友人・倉田その子さんがオーナーシェフを務めるウエアハウスガーデン（調布・柴崎）に寄りました。飛田給から明大前の途中にあり、お久し振りなので。大正解でした。やっぱりおいしいお料理の数々を堪能し、ことし２度目のボージョレ・ヌーヴォーもいただけました。ほんとにことしのボージョレは当たりだと思います。ぜひ皆さんもお試しください。充実した一日の締めくくりにぴったりでした。
August 31, 2014
幻聴妄想はこの世界の豊穣 アーツ千代田3331「シリーズ存在と生活のアート 新・幻聴妄想かるたとハーモニー展」
・・・
【ら】ジオから自分のことが言われている
【へ】リコプターとジェット機はアメリカ軍諜報機関 監視されている…
【と】つ然雨が降ってきて そしたら 周りの町が消えていった
【こ】ンビニに入るとみんな友達だった
およそ5年前、Eテレで初めて知った「幻聴妄想かるた」。そこに詠まれていたのは、「世田谷 就労継続支援Ｂ型事業所 ハーモニー」に通所する皆さんの体験でした。
・・・
最初はそのめくるめく世界におかしみをもって驚いたのですが、思えば亡き父はそうした世界を体験していたと思うのです。内臓が溶け出しても医者にかかることを拒否し、最期は入院数日で息を引き取った父。自分が小学生のころから妄想癖（いま思えば）がありました。「自分が速度超過で捕まったのは、母が警察に連絡したからだ」と本気でいう人でした。母が隣の座席に乗っていたのに。こうした事例を挙げれば枚挙に暇がありません。頑なな姿勢も、ほかに根深い理由があったにせよ精神的な問題もあったはず。しかし、どうしもないことでした。
・・・
きょう、アーツ千代田3331（東京・外神田）で残り9月5、6、７日に開催される「シリーズ存在と生活のアート 新・幻聴妄想かるたとハーモニー展」にお邪魔しました。偶然にも、前回同館にお邪魔したのは2011年夏、初めて見る写真家・齋藤陽道さんの個展でした(前夜にＣＸの「NONFIX」という番組で齋藤さんを知り）。そして齋藤さんのライフワークの被写体として、ハーモニーの皆さんがいて、きょうの会場にも齋藤さんの作品が展示されていました。自分が実際に「新・幻聴妄想かるた」を入手したのも、齋藤さんが展覧会を開いたワタリウム美術館でした。つながっている。
・・・
そしてたまたまきょう、15時半くらいに会場にいって展示を見て、Eテレで最初に知った前の「かるた」を手に入れることができ、ほんとうにうれしかったと思ったら、なんと18時から齋藤さんが「かるた大会」の読み手として来場されるということで、せっかくなのでご挨拶することに。会場には、似顔絵とその方が詠んだかるた、ある方の部屋の再現、齋藤さんの写真、実際にハーモニーの会合で書き出された話し合いの内容がそのままのホワイトボードなどが展示され、その世界の広がりと、温かいみなさんの思いが伝わってきてほんとうに心地よかったです。
・・・
いったん外神田を散歩して妻恋神社さまに参拝。会場に戻ると齋藤さんがいらしていてご挨拶し、かるた大会の冒頭では自分がＴＶで見たＶＴＲが流され、懐かしく見ましたら、ほかの皆さんも映し出される数年前の自分たちの若い姿に感動されていました。19時に新宿で待ち合わせがあったのでかるた大会冒頭で帰りましたが、ほんとうに一般参加者の皆さんも楽しそうでした。
・・・
父はこうした場所に縁がありませんでしたが（社会人としては仕事をしっかり定年、その後までしていましたから）、苦しみを分かち合うこうした場があるのはなによりだと考えます。そして皆さんが体験する世界は、間違いなくこの世界の断面であり、この世界の豊かな一面でもあると思えてならないのです。また、ハーモニーさんは自宅から自転車で十数分でいける場所。一度実際にお邪魔してみたいです。
August 17, 2014
イノリのカタチ 多摩美術大学美術館「東北のオカザリ―神宿りの紙飾り―」
きょう初めて、多摩美術大学美術館へ。校舎とは別に京王・小田急多摩センターの商業区にあってベネッセコーポレーション東京本部とサンリオ・ピューロランドのあいだに立地し至便。個人的にも地元・明大前から特急1本でいけるのでとても楽でした。そして食べログで見つけた駅前のカリヨン館７階にある「蕎麦酒房 十割そば 鬼や」のおそばとかき揚げ丼が思いのほかおいしかったです。
駅から近い
目的は同館で来月15日まで開催、「東北のオカザリ―神宿りの紙飾り―」展です。和紙を神職が神々を中心とした意匠のかたちにかたどり、日常生活から祭祀の場で飾り付けられるのです。千葉惣次氏らのコレクションが会場いっぱいに展示され、東北の人々がいかに神々を捉え、慈しみ、信仰しているかがひしひしと伝わり、心震えるものがありました。祈りのかたち。
お稲荷様は狐のかわいらしさを、水神様は不思議さを、カマドの神様はいかしさをたたえ、こうした神々に見守られていることを感じながら生活できるなんて、ほんとうに心強くも一本芯が必用なことと考えます。神々の視線を感じなくなったとき、あるいは忘れるとき、人は自然を破壊し、人間性を踏みにじるのでしょう。今の日本に足りないのは、八百万の神々と生きている実感です。
ポスターを無料で頂けました（1日15枚限定）
ほか会場では宮城県登米市の上町法印神楽が映像で流され、たまたま自分は「産屋」「初矢」を見たのですがとりわけ前者、演者の刀さばきの見事さに息をのみ、つい拍手をしそうになりました。2年前、高千穂で見た観光神楽とはまた一段と高まった緊張感が漲ってライブで見たくなりました。また、精緻な藁蓑や木像などの民具も展示され、用の美、とはこれだと噛み締めた展観でした。
追記：会場で販売されていた『東北の伝承切り紙―神を宿し神を招く』(コロナ・ブックス)の序文を赤坂憲雄・学習院大学教授（福島県立博物館館長）を書かれていて、その文章が実に胸に落ちました。民俗芸能・文化は、東北被災地の破壊されたコミュニティー再興の核となり、それは神社仏閣そのものと結びつき、いま宗教という「パンドラの箱」を開けるべきときがきたのではないか、と指摘されています。やはり日本の根っこは何か、考えていきたいです。
July 28, 2014
学も楽も満載！歴博初訪館――充実の千葉県佐倉市・国立歴史民俗博物館
きのう、初めて国立歴史民俗博物館（千葉県佐倉市）へ。予定した鑑賞2時間では民俗学を専門とする第4室さえ見終わることができないほどに充実した、多岐にわたる展示スペースが広がっていました。4室ほぼ冒頭でアイヌ民族の「二風谷ダム訴訟」を初めて知り（知っていたのはアイヌ出身で初の国会議員、萱野茂氏の活躍くらい）、こうした展示は権力からの独立なくしてありえませんから、同館の意義の大きさをまず噛み締めたのでした。 今回はすべてXPERIAで撮影。
京王線明大前から都営新宿線直通に乗って本八幡、京成本八幡から京成佐倉。片道1時間半でしたが、乗換えが1回なので大変ではなくむしろ近いな、と思えました。京成佐倉に着いて食べログで見つけた秋田屋さんという会席料理のお店で田舎料理を軽く食べ、時間節約のためタクシーで博物館へ向かいました。歩いたら汗でびちょちょ必至ですし。
まず感動したのは、建物上部にほんとうに「歴博」と表示されていること。以前、雑誌編集の仕事でお世話になった際など通称として「歴博」「民博」（国立民族学博物館）と言っているつもりでしたが、公称になっているとは思いませんでした。そう、きのうの目的はＮＨＫBSプレミア「新日本風土記」でも紹介された、特集展示「中国・四国地方の荒神信仰−いざなぎ流・比婆荒神神楽−」を見ること。いやがおうでもわくわくしました。
しかし4室冒頭から楽しい、楽しい！ 「おせち料理」の変遷ということで戦前から現代までの雑誌特集記事、三越のおせち料理のサンプルが大量に展示されていたり（うちは２年連続で大丸松坂屋おせちでしたが2015年は三越にしようとさえ思いました）、各地のお土産が分類されていたり。そして一変、先に書いたアイヌ民族のコーナーでアイヌ独自文化を認めた訴訟判決を伝える北海道新聞記事を読みました。自民党の典型的な土建政治のあり方、人権蹂躙を断罪した判決に胸打たれました。
そして訪館目的だった広島、四国山中の荒神信仰の展示は迫力がありました。もちろんここでは学問という枠組として公開されていますが（でなければ畏れ多く展示できないでしょう）、そこから伝わってくる土地土地の信仰の力を感じずにはいられません。必ずや当地のコードとして機能していたと考えます。また河童をはじめとする全国の妖怪やまじないの紹介など、われわれの生活に根ざし、今も脈々と息づいている世界観が紹介されおぉ！と思ったら、自分の時間切れとなりました。
結局、企画展示ぶんの料金も払ったのですが一切、見られずの帰去。つぎはまる1日を費やすつもりでお邪魔しようと思います。佐倉市には川村記念美術館もありますし、秋の再訪を誓って特急列車に飛び乗ったのでした。美しい田園のなか、窓から見えた印旛沼が放射性物質で汚染され、とれた魚貝が食べられなくなってしまったことを悲しく思いました。民俗、つまり土地の生活文化を守るのに原発は計り知れない危険要因だと改めて噛み締めた帰路でした。
July 19, 2014
くもりでよかったおでかけびより
きょうは振り替え休暇で、実家の母親と上野の東京国立博物館で開催されている「台北 國立故宮博物院」展へ。一般公開前日までポスターの表記を巡って台湾政府が開催をどうするかを協議し、どうにか開催されたという経緯がありました。数年前の台湾旅行で訪れた思い出も蘇ります。
・・・
実は先月、母の希望で東京藝大美術館で開催された「法隆寺」展へ行く予定だったのですが、当日、大雨となっての故宮展鑑賞となったのです。しかしきょうも事前の予報では雨の可能性が高い、ということだったのですが無事もってくれ、逆にかんかん照りではない涼しい日和となりました。
・・・
みどころはなんといっても王羲之、黄庭堅、欧陽詢、米芾、張即之らの書、さらになんと徽宗の作品まで…。ぼくは玉類にはまったく興味ないので、もう前半展示でおなかいっぱいになってしまいました。各名筆の筆遣いの美、徽宗の慧眼・美意識が生かされた筆致。ただ、ため息が漏れました。
・・・
母も楽しんでくれたようで、昼食後、東洋館の朝鮮工芸コーナーへ案内しました。ただ、昨晩観てもらい、これも大いに楽しんでもらえた映画「王になった男」つながりで以前にあった衣装の展示が代わっていたのは残念。とはいえ、一緒にでかけられてよかったです。来月は父と兄のお盆です。
May 14, 2014
聖なるものは聖なる場所に
11、12日に大阪、奈良に向かったきっかけは大阪市立美術館で開催中、「山の神仏」展の公式アカントにフォローされたことでした。そうでもなければそんな展覧会が開かれているなんて知るよしもなく、職場の休憩室で大阪行き決定でした。交通費はこつこつ貯めているＪＡＬマイルを使えばないも同然。
大阪市美は2000年、フェルメール展に来て以来。なんで年号がわかるかというと、そのときに大もうけしたらしく、阿倍野方面から「フェルメールの小径（こみち）」というものが整備されていて、そこの碑に詳細が記されていたからです。ちょうど親類の結婚式があって来阪していて母と鑑賞したのでした。
美術館に入るとむっと暑く、さらに撮影禁止だからカメラレンズにキャップをしろといわれました。東博平成館でそんなこと言われたことありませんから、僕もむっとしました。さらに、老人の団体客が展示物にふれんばかりの大きな身振り手振りでしゃべりながらの鑑賞。僕はWALKMANの音楽でしのぐしかありません。さらに、もっと呪術的な展示かと思いきや仏像が大半でした…
で、思ったのですが、僕は仏像にはほとんど興味がなく、さらに神にはカタチがないと思っていますので、珍しい神像が展示されていても心が動かないのです。そして一番痛感したのは、聖なるものは聖なる場所にあってこそ、価値があると。ということで、正直、展覧会は… しかし資料（史料）的には勉強したいので重いカタログは購入したのでした。
さんざん仕事で開業時に記事を読んだあべのハルカス。ウィリス・タワー（旧シアーズタワー）の透明＆低い版って感じ
April 27, 2014
キトラからつながるトキ 東京国立博物館・特別展「キトラ古墳壁画」×いとうせいこう×河瀬直美
2日前、いとうせいこうさんのtweetで22日から東京国立博物館で開催されている特別展「キトラ古墳壁画」 の関連で、いとうさんと河瀬直美監督のトークショーがあると知り、すでに特別展のチケットは購入済だったので混雑覚悟で行くことにしました。キトラ古墳壁画という呪術の結晶が東京に来るなんて、初めて開催を知ったときは大丈夫なのかと危惧したものでした。
トークショー前には、キトラ古墳が存在する奈良の飛鳥地方（橿原市、高取町、明日香村）で撮影された河瀬監督の「朱花（はねづ）の月」を上映。ただ観て思ったのは、確かに映し出される飛鳥地方の風景は美しく、万葉集で詠まれた歌に掛けられた内容となっているものの違和感と不快感でいっぱい。なにしろ俳優たちが村の風景にまったく溶け込んでいなくて、異物感が半端ない。苦痛な時間でした。安い三文芝居をこじつけで飛鳥地方で撮ったような…
上映後には河瀬監督と飛鳥地方３市町村長の挨拶がありその後、いとうさんと河瀬さんとのトークショーが始まりました。いとうさんが強調したのは、キトラ古墳を通した視点として今現在が過去と未来の連なりの中の一点であり、そうした想像力が若者から失われている。もっと「じいさんばあさん」の話に耳を傾けるべき、と。またWOWOWの番組企画で高松塚古墳壁画を再現し、その櫃の中に横たわった際の感想（高松塚とキトラの壁画から察せられる作成意図）、人形浄瑠璃の素晴らしさなど多岐に渡り、分かりやすく胸に落ちるお話をされました。
壁画鑑賞までの待ち時間は30分。きょうは最長2時間だったそうで、16時過ぎで暑くもなくラッキーでした。そして、目の前にした壁画は想像以上に鮮やかな色彩で、さらにはその生き生きとした造形に胸打たれました。まさに「神様」たちが身近で生きていたのです。天井には星宿が描かれ、呪術的に固められた石室。素晴らしい！ いまの日本に欠けてしまった思想体系が、目の前にある。混雑のために移動しながらの鑑賞でしたが大満足です。近年熱望する奈良への旅に思いを馳せました。
April 23, 2014
森栄喜の余韻を愉しむ
４月20日、新宿のコニカミノルタプラザ（ギャラリーＣ）で開催されている森栄喜「intimacy」（第39回木村伊兵衛写真賞受賞作品展）へ足を運びました（4月24日まで）。『intimacy』は新宿Book1stでサイン本を手に入れ、しばらくして受賞を知りました。すごいことだと思いました。
ふだんの壁面を使う一般的な展示とは一線を画し、会場中央にパネルをつるすかたちでしつらえられていました。この工夫が、立体的で、奥行きある作品鑑賞を実現しているのです。ゆっくり作品、一つひとつを鑑賞する。まさに書籍の写真集の枠を超えた体験でした。
もちろん、森さんと相方さんの生活を写し撮ったテーマの在り方が評価された大きなポイントであることは確かでしょう。木村伊兵衛とは時代を映す鏡でもありました。ただ、それを差し引いたとしても作品に湛えられた、あるいはたゆたう詩情、叙情性にただただ息をのみました。
同じプラザのほかのギャラリーに展示されている作品を前に見ていたから余計なのかもしれませんが、わざとらしいレイアウトの作品は一つもないのです。しかし、そこには森さん独自の美的センスで切り取られた「世界」があるのです。滞在時間は30分ほどでしたが、余韻は永遠です。
April 13, 2014
試し撮り
きょうは先月末に入手した、SONY・α6000に慣れるため写真を撮ろうと、恩賜上野動物公園と東京国立博物館へ。まだ全然、使いこなせません。
ひさびさの上野動物園です。一体何年ぶりか分かりません。ほんとうは多摩動物公園に行ってみたいのですが、東博にもいってみたかったので。
思いのほかホッキョクグマがやせていて驚きました。一方、ヒグマの大きさには圧倒されましたが、その優しい瞳に胸打たれました。プレーリードッグは思いのほかかわいらしかったです。
東博は、いわゆる常設展、東洋館の朝鮮コーナーのみをみたのですがおなかいっぱい。素晴らしい作品に、一点一点にためいきでした。とくに銅鏡、面の呪術性に歓喜です。
夜は2度目の新大久保・唐風（BS11「韓ラブ」ロケ地で有名）へ。友人におごってもらいました。数週間ぶりの韓国料理は実に美味でした。
March 19, 2014
消しゴムはんこで描く人、３００様！ 西荻窪ＦＡＬＬ、ポン豆ヤ・渡辺なお個展「３００人のポーズはんこ」
今夜、仕事終わりで西荻窪へ。ひさびさのニシオギです。ＦＡＬＬで23日まで開催中、消しゴムはんこ師、ポン豆ヤ・渡辺なお先生の個展、「３００人のポーズはんこ」にお邪魔しました。前回展は失念してしまって行けず、今回は絶対と思い初日にお邪魔しました。
今回はオーダーメードで注文・制作されたポーズはんこが約６年で３００人分にのぼり、一冊の「はんこ採集帳」にまとめられた記念に開催されているようです。会場には所狭しと「ポーズはんこ」が３００点以上、展示されています。つまり、ここには３００様の人々の生活があるわけです。すごい！
「ポーズ」「変身」「職業」「音楽」「芸達者」「日常動作」「○○と私」と７テーマに分類された作品を観ていると、愉しくもあり、心和みました。そしていつもなお先生の作品を見ると、そのやさしい眼差し、想像性あるセンス、そして彫る技の巧さに拍手なのです。あたたかさにひたれました。
March 18, 2014
陶芸 つながり、融合した日朝の精華 駐日韓国文化院「海峡をつなぐ陶匠400年の旅−李参平と沈当吉（沈壽官家初代）をめぐって−」
きのう、新宿三丁目のシネマート新宿でフィルム・ノワールの傑作、韓国映画「新しき世界」の席をとり、徒歩圏だったので上映までの2時間弱を使い四谷三丁目の駐日韓国文化院で今月22日まで開催中、「海峡をつなぐ陶匠400年の旅−李参平と沈当吉（沈壽官家初代）をめぐって−」へ。実は先週日曜日、勢い込んで同館を訪れたらなんと日曜休館だったので無駄足を踏んでしまい念願の鑑賞だったのです。入場無料。 ※写真は許可を得て撮影しました。
主に沈家伝世品収蔵庫、日本民藝館所蔵からの出品で、�〜長颪寮魂據縦�鮮陶磁器、�⇒�田焼と李参平、��薩摩焼と沈当吉、の３テーマで構成されています。�，任蓮嶌�毛目碗」（忠清南道・鶏龍山窯、16世紀前半、日本民藝館蔵）、�△任蓮峺徹頬�里 色絵熨斗菊花文髭皿」（有田・内山窯、18世紀、日本民藝館蔵）、��では「白薩摩茶碗」（17世紀、沈家伝世品収蔵庫蔵）などが見所です。
いずれの作品も、洗練と温かさともにあり、まさに「用の美」そのもの。加えて本展の要は詳細な展示解説（素晴らしい文章！）、十五代沈壽官、十四代李三平の言葉です。文禄・慶長の役の侵略によって強制連行された初代の陶工たちが、日本に同化したり、敢えて独自文化を義務付けられたりしながらも、今日まで受け継がれた技芸の精華の尊さを垣間見ることができました。
先月急逝された山本兼一著『利休にたずねよ』で描かれたとおり、日本の陶芸文化、茶の湯文化は朝鮮文化なくして成り立ちません。つまり「日本の美」の中枢には、朝鮮の美的感覚が脈々と流れ、それを再発見したのが柳宗悦であり、浅川巧でした。昨今の愚かな人種差別行為は、すなわち日本文化の否定です。本展のかけがえの無い展示を観て、改めてかみしめました。
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March 12, 2014
16日までにワタリウム美術館へ！ 写真家・齋藤陽道写真展「宝箱」いよいよ閉幕へ
写真家・齋藤陽道さんの個展「宝箱」（ワタリウム美術館）がいよいよ昨年11月30日からの会期を今週末で終えます。朝日、日経、読売、共同、東京、ＮＨＫ、日テレや各種雑誌へのメディア露出もありましたが、やはりぜひ、皆さんに「齋藤作品」をじかに体験していただきたいのです。僕はＴＶで日テレの紹介を見たのですが、彼らのあくまで「障害者枠」で齋藤さんを紹介しようとする姿勢にショックを覚えました。小山慶一郎さんが手話で齋藤さんとやりとりするのはいいのですが、スタジオのコメントは…。やはり偽善の代名詞、「24時間テレビ」をやっている局はどこの部署も同じ発想なのだと残念です。
同館に切抜きがおいてあった椹木野衣氏論評のように、作品を分析的に鑑賞する際に齋藤さんの聴覚障害が俎上に上ってくるのは当然のことだと思います。けれど、すっと作品と向き合い、その世界に浸るとき、齋藤さんの障害云々は関係ないはず。僕が2011年夏、ＣＸ「NONFIX」と個展で齋藤作品に出合ったとき、僕がぐいぐい引き込まれたのは作品の魅力であり、齋藤さんが語る、書く言葉の一語一語でした。齋藤さんは僕にとって、写真の人であると同時に言葉の人なのです。今回、会期中に開催された詩人・谷川俊太郎さんとの対談も、齋藤さんだからこそ実現したのだと考えます。
とごちゃごちゃ書きましたが、齋藤作品の世界へ足を踏み入れれば、もうそれで十分ということです。心を解放し、好きなことを考えればいいのです。笑えばいいのです。泣けばいいのです。感動すればいいのです。知れば知るほど、齋藤陽道の作品は魅力にあふれています。ぜひ、皆さん。16日日曜日までにワタリウム美術館へ足を運んでください。僕は今夜、仕事帰りに4度目にして最後の鑑賞してきました。いつも、発見があります。みなさんのお力が、才能ある写真家を支えます。どうぞ、よろしくお願い申し上げます。
February 16, 2014
国が授与する「賞」の意義をかみしめる 第17回文化庁メディア芸術祭 アニメーション部門大賞「はちみつ色のユン」
ほんとうに感動的でした。「はちみつ色のユン」のコーナー前に人垣ができ、映し出されるＰＲ映像にその人々が釘付けになっている。自分が同作を観たのは、下北沢トリウッド。自分の上映の回のとき、なんと自分以外に誰もいなくて観た後の感動と、この作品がもっと多くの人々に観てもらいたい、という思いがどうしようもなく募ったのを強く覚えています。
きょう、六本木の国立新美術館で開催されている「第17回文化庁メディア芸術祭」へ足を運びました。ユン＆ローラン・ボアロー監督「はちみつ色のユン」はアニメーション部門で大賞に輝き、アニメの原作となったマンガ、絵コンテ、ユン監督の子どもの頃の写真などが展示、映画の一部が上映されています。朝鮮戦争後、韓国からベルギーへと養子にだされた監督の子どものころの体験を中心に、アニメと実写などでつづられたドキュメンタリー作品でもあります。
会場全体ではアニメ部門のほか、エンタメ、アート、マンガ部門の紹介がなされ大盛況。きわめて批評的、政治的な作品からサブカル的楽しみが満喫できるものまで幅広い受賞作品が紹介されています。自分としてはアニメ部門で大好きだった「有頂天家族」が優秀作のひとつに選ばれ、本当にうれしかったです。また、新人賞の「WHILE THE CROW WEEPS ―カラスの涙―」（鋤柄真希子／松村康平）を初めて観たのですが、作品の美しさもさることながら、カラスが題材、かつ愛情いっぱいにつくられているのにもまた感動。自分にとって大きな収穫だったのです。
昨今、国が与える「賞」の役割がその選考段階で問題があり、機能を十全に果たしていないケースが明るみに出ています。そんな中、「はちみつ色のユン」のような、あまり人口に膾炙しているレベルではないけれど、素晴らしい作品に賞が贈られ、こうして注目されるというのは国が賞を与える意義がもっとも発揮されている場面ではないかと思うのです。単なる権威付けではなく、掛け替えの無い作品が多くの人々の目に触れることにより、新たな物語が生まれる。「賞」の意義を改めて噛み締めた次第です。
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February 02, 2014
白狐に会いたくて 東京都美術館「日本美術院再興一〇〇年特別展 世紀の日本画」（前期）
感嘆し、陶酔し、圧倒され、後半は落涙を抑えられませんでした。画家たちの、新時代を切り拓こうとする気概と、作品に向かい合う真摯さと、「美」への希求。ほんとうにすごい。すごかったのです。東京都美術館で開催中、「日本美術院再興一〇〇年特別展 世紀の日本画」（前期、〜2/25）。オーストリア・バロックの作曲家、パンドルフィのヴァイオリン・ソナタを聴きながら鑑賞しました。
ほんとうだったらいかなかったかもしれないのです。こうした制度に組み込まれた美術への偏見がありました。旧態依然とした、形式主義に陥った作品がおもしろいわけがない、と。けれど、幸運にも仕事で展観の紹介記事を読み、そこで紹介されていた下村観山「白狐」の画像を見て、これはぜひ白狐さまに会ってみたい、と心に決めたのでした。
出会えた「白狐」は、やさしい眼差しをした、美しいおキツネさまでした。秋草繁る木立ちの間にすっくとそこにいる白狐は、観山の師・岡倉天心が書いた英文オペラ「白狐」に着想を得たと記事にもありました。琳派の華麗さと、観山独自の筆致が生きた素晴らしい作品でした。いまも、あの白狐の眼差しを思い出すと胸がいっぱいです。
そして素晴らしいのは「白狐」だけではなかったのです。というか、近代日本最高峰の画家たちの精華の数々がならび、教科書で見たことのある作品が複数ありました。展示前半だけでも前田青邨「京名所八題」（「清水」ほか）、奥村土牛「閑日」、平櫛田中「鏡獅子」「酔吟行」（木彫刻）、川端龍子「佳人好在」、足立源一郎「チューリップ」、小山硬「天草（礼拝）」、小茂田青樹「虫魚画巻」…。
あんなにも生き生きと、つややかに、誠実な希求が満ち溢れた作品の数々に出合えて、本当に幸せでした。ただ感じたのは、安田靫彦の有名な「飛鳥の春の額田王」に描かれた女帝は、うつつを生きている風でありませんでした。もちろん靫彦の画風もありますが、女性像も道半ば。大正のとき。これから女性の文化が花開くのですね。後期展が心から楽しみです。
January 09, 2014
「書」で体感する熊野巡礼 柏木白光 墨アート展 天と地 熊野へ捧げる書巡礼
きょうは仕事帰り、以前仕事でお世話になった書家・柏木白光先生の約3年ぶりの個展が、京王百貨店新宿店に京王ギャラリーで始まったので寄らせていただきました（〜1/15）。
先生の許可をいただき撮影
個展のタイトルは「柏木白光 墨アート展 天と地 熊野へ捧げる書巡礼」。先生は梵字の真髄を学ぶためにインドで2年にわたって修業して以来、その土地土地で受ける霊感を受けて作詩、書作に臨むスタイルを特徴とされています。そして5年前、那智の滝を皮切りに紀伊半島におわす神社仏閣で書作に取り組まれてきました。本展はその集大成といえるものです。
実はそうしたなかで、僕は新宮市の神倉神社での書作を取材させていただいたのでした。それもたまたま、自分の旅行の日程と、先生の日程がぴったりあっての、まさに奇跡的に実現したものでした。そのときの経験は自分にとって掛け替えの無いものであり、きょうも会場でご挨拶できた日本舞踊水木流家元後見・水木歌鶴代先生にもお会いできたのです。
今回の展観でやはり感動的だったのは、そのときに先生が揮毫された2作品に再びまみえたことでした。そして展観全体の素晴らしいこと。ソウル・奉恩寺以外はすべて、伊勢路、大峯奥駆道、小辺路、紀伊路、中辺路、大辺路の紀伊半島５４ヵ所での作品を中心に展示され、熊野古道を巡るかのような体験ができるのです。題材も先生の自作詩から長嶺ヤス子さんの詩まで幅広い。
ときに繊細、ときに雄渾な筆を自在に駆使する先生の作品は、まさに先生に神が降りてきて書かせているかのようです（かのようではなく、そうなのではと、実は実体験として確信しているのですが）。単に美しい、単に大胆とは一線を画した作品に出遭える充実の展覧会。先生の今後のますますのご活躍を心からお祈りせずにはいられません。
November 30, 2013
あなたの「宝箱」が見つかる 齋藤陽道写真展「宝箱」（ワタリウム美術館）オープニング
きのう、きょうから公開が始まる齋藤陽道写真展「宝箱」（外苑前・ワタリウム美術館）のオープニングへお邪魔しました。来年３月１６日まで開催。齋藤さん、谷川俊太郎氏、よしもとばなな氏らとの筆談イベントも来年開かれる予定です。写真はOPイベントのみ撮影が許可されました。
仕事が終わって、急いで筆談イベントの残り１０分で参加。そのあと作品を鑑賞したのですが、今回本格展示となった「ソラポ」が特に印象深かったです。川の土手を歩く人々を、空をバックにとらえた作品の数々の美しさ。そこにはこの世界で、「生活」をしている人々が写し出されているのです。確かに生きている、生活している人々。そこにはダウン症の方々、車いすの方、子どもたちが、確かな存在感で存在しているのです。
また「音楽」をテーマにした一連の作品もすごい。こんなにも旋律が流れ出す写真もないのではないかと感嘆しました。聾の齋藤さんは「音楽への片想い」を語ります。ならばその思いは十二分に通じ、観る者に響いている、と確信しました。盲の辻井伸行さんが演奏する「展覧会の絵」の“色彩豊かな演奏”を思いだしました。アーティストは、一般的な「障害」の概念を超える力があるのだと考えます。
胸いっぱいになりました。幸福になりました。会場ではおでんが振舞われたのですが、胸いっぱいで何も食べられませんでした。帰途の銀座線内でテレマンのヴィオラ協奏曲を聴いたら、抑えていた涙が溢れました。素晴らしい経験をまた、齋藤さんから頂きました。感謝。またぜひ、お邪魔したいです。谷川俊太郎×齋藤陽道の筆談イベントは予約済みです。
写真家・盛山真奈美さんが掲げるPCを通して、スカイプでつながった仙台在住の詩人・岩崎航さん（同氏著『点滴ポール』の写真を齋藤さんが担当）が会場・展示の様子をご覧になっています
きのうは胸がいっぱいと齋藤さんとお話しできませんでした。再訪を約して
November 10, 2013
若冲&ターナー
きょうの東京は雲も抜け、暖かい秋の一日となりました。そこで友人と一緒に午後、皇居の三の丸尚蔵館、上野の東京都美術館へ足を運びました。フィリピン、来たるベトナムの超大型台風による計り知れない被害にはただただ胸が痛みます…
まずは、開館20周年記念「美を伝えゆく−名品にみる20年の歩み−」（後期）が11月24日まで開催されている三の丸尚蔵館へ。お堀を見ると、天皇、皇后両陛下が東御苑内の池に放流したコイ50匹が、カワウにのまれて全滅したことを思い出しました…。お堀には白鳥が一羽がすいすい。
さて来館は２度目で、思えば前回も伊藤若冲の「動植綵絵」目的だった気が。その後、全30幅が東京国立博物館で開催された「皇室の名宝展」で公開され、そしてまたきょう、うち２幅を見ることが出来たのでした。大胆な色遣いと構図、そして精細で生き生きとした筆致。目を見張るばかりです。
ほかにも、沈痛な文面を表出させる王羲之の「喪乱帖」などが出陳され、小さいスペースながらすべてが“見どころ”、皇室の名品を見られるまたとない展覧会でした。次はもっと時間に余裕をもってお邪魔し、皇居内散策もしてみたいものです。
続いて上野へ。ターナーの作品は、目に入る限り好きなのです。しかしその全容を知ることはなく、まったく知識もなく臨みました。そしたらターナー、ゴッホの対極をいく「存命中に大成功」した画家だったようです。画壇において多少の波乱をもたしたようですが、基本、エスタブリッシュメント。
で、有力者に庇護を受けるために作品を多く描いてもいました。で、そうした作品は僕が好きな彼の作品とはまったく違うのです。特に主題が何であれ、人間を描くのがうまくないようでした（あくまで僕の感想です）。かつ、大きな画面も余り得意でないような…。小品のほうがいい。
とはいえ、海に浮かぶ満月の光、掻き曇った湖水地方に降るにわか雨と淡色の虹、テムズ川に架かる橋の茫洋とした情景、黒のコントラストが生きる帆船での水葬…。淡彩を多用した画風に、ときに慄然とし、ときにうっとりしました。類を見ない作品たち。
考えるに、思い入れをもって好きで描いた作品と、“為”で描いた作品とでは歴然とした違いがあるのでは？と感じました。世間の名声とは別次元で、そうしたものがあるようで。晩年まで作品を描き続け、自分の思いのままに筆をふるった。その伸びやかさが滲む画面でした。
October 30, 2013
朝日新聞が振りかざす「正義」の悪趣味さ――日展「書」篆刻部門の審査報道
朝日新聞が、日展「書」の篆刻部門で審査に“不正”があったと報じました。審査の二段階目において、出品者の会派を考慮した選考が行われた、と。自分はかつて書道業界誌の編集記者をしていました。入社して初めて、読売・毎日・産経という３新聞社系列の書道団体のピラミッドがあり、その会派の作風にも特徴があることを知ったのです。
単純に言えば、読売は保守本流。毎日は革新系。そして産経はなんでもあり。そんな感じです。一般受けするのは毎日ですが（一時期はやった「書道ガールズ」などは毎日系）、日本芸術院という権威の中枢につながるのは読売系でしょう。また、こうした書壇と一線を画して活躍される先生ももちろんいらっしゃって、それぞれの道を究めていると考えます。
朝日新聞は毎年1月始め、上野松坂屋などで「現代書道二十人展」を開催しています。そこには会派横断的に作品が選ばれ出品、また違った権威をもっています。ただ、それだけといってはなんですが、朝日新聞が書壇にもつ影響力は限定的であり、故に今回の“スクープ”があったのだと思います。彼らがふりかざす「正義」の名の下に。
正直、朝日新聞の報道は“スクープ”でもなんでもなく、業界にいたならば当然のことと受け止めていたことです。会派に属しているからといって、簡単に入選できるものでもありません。そして、会派に属すということは会社に属するのと同じで、そこには掟があり、人間関係があり、利害関係があり、大きなお金が動いているのです。これは善悪の問題ではなく慣行なのです。
どんな世界にもパワーバランスはあり、そこで生きる人たちにとっては、その枠の中で必死に努力し、お金も使うのです。それをしたり顔でひっくり返すようなマネは悪趣味というほかありません。日展事務局だって当然黙認していたことなのに、事を荒立てたがために表立って対処せざるをえないのです。「二十人展」ボイコットがあってしかるべきだと考えます。
August 06, 2013
あたたかい作品と、ひんやり爽快なかき氷のハルモニア 浅草浪花家で開催「齋藤陽道 写真展「それでもそれでも」
きょう、久々に雨上がりの美しい夕景を見られました。韓国語レッスンの帰り、電車内で読んだ、雑誌「幽」vol.19所収の谷一生氏が紹介する被災地の“怪談”を思い出しながら空を見上げていました。人の思いは残る。犠牲者、一人ひとりの人生の残像。かすかなよすがだからこそ尊い 。けさは実家だったので広島出身の母と共にTVの前で８：１５、黙祷しました
きのう、埼玉の実家に帰る前に浅草の浪花家で開催されている「齋藤陽道 写真展「それでもそれでも」 〜8月31日（水）」にお邪魔しました。今月24日にもイベントがあるので行く予定なのですが、展示替えがあるということで、これは先に行っておかねば、と。
「それでもそれでもそれでも」は、齋藤さんが週刊金曜日に連載しているフォトエセーです。毎号必ずは買っていないので（立ち読みはします…）、印象に残っていて展示作品でじっくり見返すことができたものが何点かありました。ただ、満席ですので他のお客さんを気にしつつですが。
それにしても、エセーが手書きで展示されているとは思いもしませんでした！齋藤さん独特の筆致で綴れた文章は、あたたかく胸に広がり、ときにするどく心底に残ります。ひと作品、ひと作品に込められた齋藤さんの思いの軌跡を辿る。いよいよフォト・エセー集としての出版が待ち遠しくなりました。
さて、もう一つの大きな楽しみが、同店はたい焼きもおいしいですが、この時期、やはりかき氷！この夏、初めて食べるかき氷です。僕が注文したのは“フルーツほわいと＋アイスクリーム”。淡雪のような氷に豆乳がかかり、そこに四種のベリーシロップをかけ、バルサミコ酢をお好みで。
いや〜〜おいしかった！ 正直、銀座線浅草駅から同店までは少々歩きます。それが暑かった！もう頭の中は「（作品もだけど）かき氷が待っている！」でした（笑） 炎天下の人力車のお兄さんたちに心の中で合掌しつつ辿り着いた甲斐ある美味でした。あたたかい作品、冷たく爽快な氷の好対照をみなさんもぜひ、体験してみてください！
点滴ポール 生き抜くという旗印 [単行本]
June 19, 2013
山口・萩の逸品を南青山で 根津美術館「特別展 やきものが好き、浮世絵も好き 山口県立萩美術館・浦上記念館名品展」
きょうは予定と予定の合間を縫って、根津美術館で7月15日まで開催中、「特別展 やきものが好き、浮世絵も好き 山口県立萩美術館・浦上記念館名品展」へ。
後漢の緑釉犬に頬が緩み、北宋の白磁合子や景徳鎮窯・青白磁輪花杯の洗練に酔い、唐の藍釉合子に胸ときめく。浮世絵では広重の「王子装束ゑの木大晦日の狐火」が見られて感激！
鑑賞後、いつものコースでお庭を散策。雨がぱらぱらと降るも備え付けの傘をさしてお庭を巡ると、池には菖蒲か杜若か分かりませんが、蕾が拳のようになっていました。あと数日後には見ごろでしょう。
May 20, 2013
こんなところにも広がっているよ 齋藤陽道・写真展「せかいさがし」
ここちよさ。あたたかさ。やすらぎ。ふしぎさ。ときめき…。“せかい”は、こんなところにも広がっているよ、と魅せてくれる。写真家・齋藤陽道さんの写真展「せかいさがし」は小規模ながら、さまざま思いが去来する個展でした。
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青山の古民家を利用したギャラリー・青山ゼロセンターで6月2日まで開催中。1階では岩崎航さん『点滴ポール』（ナナクロ社）発刊を記念して、岩崎さんの短歌、齋藤さんの写真（ともに同書に掲載）が展示されていました。また齋藤さんの「せかいさがし」写真スライドも上映。
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たとえば。螺旋のかたちをした照明。その光に照らされている男の子。彼の表情はとても素敵な笑顔で、その光を見つめている。あたたかくて、こころがやすらぐ。単なる照明器具が、螺旋の不思議な発光体となって、男の子に語りかけているよう。
たとえば。モーターバイクの一部にラメ加工がされている。でも、そこに齋藤さんの視線が向かえば、そこには輝く星々が広がる宇宙が見えるよう。そのB0という大判の写真に広がる宇宙。ときめくのです、その美しさに。こんなところに“せかい”があった！って。
作品鑑賞後、齋藤さんと筆談させていただき、自分が以前から大好きで、希望の写真をプリントしてもらえることになって感激。その作品への齋藤さんの深い思い入れ、制作意図も訊けて、その作品がわが部屋にやってくる日を夢見ます。
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今、目の前に掲げてある齋藤作品2点のうち一点は齋藤さんのお宅で暮らしていたおばあちゃんの犬さんだった、ときょう知りました。そしてその子が、齋藤さんのtweetでも一緒に暮らしている犬が亡くなってしまったことは知っていたのですが、まさか目の前のこの子が、14歳７カ月という天寿とはいえ亡くなった。このことは齋藤さんにも一様のことではないでしょうし、僕自身にとても大きな事実です。同時に、齋藤さんが留めた“いのち”が僕の部屋で生き続けている！
僕が作品を購入して
「いぬが残っている、ということにふと、気付いたとき、写真ってすごいなぁ…と思いました。うれしいです」――筆談より
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この作品のぬくもりは永遠です。ここにもたしかに“せかい”がある。もちろんもう１点の、太陽の光の輪の中に実物大ガンダムが背を向けて屹立している作品にも。齋藤さんを通じて、この世界の豊穣を味わいます。写真展、皆さんもぜひ足を運んでみてください。
May 17, 2013
無常なる身体への祈り フランシス・ベーコン展
きょう、五反田で韓国語レッスンを受けた後、東京国立近代美術館（竹橋、〜5/26）で開催されている「フランシス・ベーコン展」へ向かいました。金曜日は20時まで開館しています。会場は学生さんから仕事帰りの皆さん、さらには子ども連れまで幅広い客層で大盛況でした。作品の被写体となっている、ベーコンの男性の恋人のことをちゃんと説明できますか、お母さん？
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正直、ベーコンといえば哲学者ロジャー・ベーコンのほうがなじみがあるのですが、購読している日経新聞推し（浅田彰先生の解説が刺激的）と、僕は未見の同展を紹介したNHKEテレ「新日曜美術館」を見た実家の母推しもあり（大江健三郎さんの解説がよかったそうです）、足を運んでみました。
印象としては展観の区切りともなっている1950年代の作品と、60年代以降の作品では作風が大きく変化しているように感じました。50年代の作品から感じたのはある種の“呪い”でした。実際、アトリエには心霊現象を扱った『物質化の現象』（1920）という本もあったとのこと。あちら側とこちら側を往来する男。うつぶせになり、叫ぶ顔だけこちらに向ける像は、映画などに登場するクリーチャーにどれだけ影響を与えたか計り知れません。
また、教皇や枢機卿が描かれるのですが、その叫ぶ表情、押し黙るさまは、その存在自体が権力の権化でありつつ、さらに映画で描かれる権力による虐殺シーンのイメージを重ねているそうですから、抑圧（存在）と解放（叫び）が同時に存在している。同時に、彼らが座る枠がしっかりした椅子は権力の象徴であると同時に、彼らを縛り付ける抑圧装置であるでしょう。つまりこれも「抑圧」と「解放」が同居し、「両極端なものを共存させる」(作品解説）、バロック的要素をそこに僕は見ました。
バロック的要素は残しつつ、60年代以降の作品ではまた様相を異にしていました。ベーコンの恋人が描かれた「ジョージ・ダイヤの三習作」は、その歪んだ顔こそ描き手側、描かれる側の複雑性・重層性の表象としても受けとれるけれど、落ち着いたピンクのバックはこの作品への思い入れが感じられるものでした。一方、同様にピンクを背景に作品も含め、隆起し、ねじれた肉体、内と外との境界が見出せない肉体の塊が描かれた作品（文学、写真などの影響を受けている）は、痙攣している、あるいは常にメタモルフォーゼしている一瞬を切り取った静止画に思えました。
ベーコンは「偉大な芸術は、人間の置かれている状況がいかに脆いかをきちんと思い出せてくれる」と指摘しているそうです。つまり人間は脆い。その身体は痙攣し、無常。しかし敢えてその一瞬を絵画に留め、かつて祭壇画の様式として隆盛した三連幅の形式で作品にしたのは、現代における人間の脆い身体性への“祈り”が込められているのではないか。無常への切実なる思いが、ベーコンを創作へと駆り立てたのでしょうか。
May 15, 2013
あふれるエネルギー！ 大神社展
きょう、東京国立博物館 平成館 で開催中（〜6/2）、「大神社展」に足を運びました。会場は平日とは思えないほどこんでいまして、やはり「神社人気」はほんものなんだな、と実感しました。
さて、展観としては神様の木の塑像が“ウリ”のようですが、僕個人としては日本の神様はカタチなき存在、あるいは岩や木といった自然物こそが信仰の対象であるべきと考えますのでここでは触れません。
では、何がこの展覧会で僕にとって結果的に目玉かといえば、それは銅鏡であり、勾玉であり、刀剣でした。国宝の脇差の美しさには目が眩みます。しかし、なんといっても銅鏡、勾玉を前にしたときのあの波動というか、エネルギーはすごかった。ガラス越しに拝見しながらもう心臓バクバクです。いわゆる勾玉のきれいな曲線をもたない勾玉は、それが故に実際に祭祀で使われていたという感がとても強かった。そして銅鏡に秘められた「意味」が力となって作用しているようでした。すごかった。
ほかの書・工芸品にも見どころ沢山だと思います。そんなこんなで平成館だけで疲れてしまい、新装オープンした東洋館は１階を見ただけで次回のお楽しみとしました。本館、東洋館は写真撮影可なので、しっかりカメラ持参で行きたいと思います。
May 10, 2013
冴え冴えと 小野啓写真展「NEW TEXT」 於 72Gallery
きょうは夕刻、京橋の72Galleryで開催されている「PHaT PHOTO」Presents 小野啓写真展「NEW TEXT」にお邪魔しました。小野さんの“「NEW TEXT」作って届けるためのプロジェクト”の一環です。
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会場には、小野さんが10年にわたって撮り続けている高校生を被写体とした作品から14点が掲げられていました。それほど広くない会場にたつと、緊張感を覚えました。
もちろんアングルや背景は様々ですから、彼らの視線すべてがこちらを向いているわけではありません。ですから、彼らの存在感それ自体が、冴え冴えと伝わってくるのです。
茫洋とした自分が、未来を見据える彼らの存在に適うはずがありません。彼らを前にして、背筋が伸びる、否、戦慄する思いでした。この“鮮烈”が、一冊に結実する日が早く来ますように。
February 28, 2013
夢の具現化、創造の高揚をはらむ ヂョン・ヨンドゥ 「アーティスト ファイル 2013 ―現代の作家たち」@国立新美術館
きょう、シネマート六本木に「韓国映画セレクション 2013春」の前売り券（2枚）を買うついでに国立新美術館へ寄ってみました。ポスターで気になっていた「アーティスト ファイル 2013 ―現代の作家たち」（〜4/1まで開催）が目的です。
8人のアーティスト作品が展示されていたのですが、僕には展観冒頭に展示されたヂョン・ヨンドゥ（韓国、1969年〜）の作品が一番楽しく、そしてしっくり鑑賞することができました。このポスターで対になっているように、子どもが描いた空想の絵を、彼が実体化させた作品の写真が15点、また映像作品が6点。
子どもが描いた世界の模倣ではなく、そこに彼の感性が織り込まれ実体化されるのです。さらにCGではなくすべて手作りですから、そこにはアナログだからこその創造の豊穣が生まれます。視覚的に美しかったり、愉快であるには地道な手作業の裏づけが必須です。
そして何より、ヂョン氏による手がかりとなる絵の具体化を伴う視覚化へのアプローチに我々は陶酔するでしょう。そこには確かにファンタジーがあるし、同時にリアリズムがある。子どもの頃のあの夢が今、現前する。静かで幸福な高揚が、その作品には湛えられているのです。
映像作品は老人たちが昔語るお話の一景を実体化させる工程を、語りの映像と縦二分割して映し出します。そこには彼らが「過去を語る」なんらかの変容があり、多分に郷愁を含んだ情景が具体化されるのです。観客は目撃者となり、その情景の中へと取り込まれていくのです。
February 14, 2013
日本人はいかにして3・11に至り、すごしているか 「高嶺格のクール・ジャパン」＠水戸芸術館
昨年7月21日、自分もお邪魔した水戸芸術館で開催された「高嶺格のクール・ジャパン プレ企画 トークセッション：小熊英二×高嶺格×吉岡洋」も一つの礎を成したであろう、「高嶺格のクール・ジャパン」（〜2月17日）にきょう、足を運びました。閉幕ぎりぎりに行けてよかったです。高嶺さんの前回大規模展は横浜美術館でだったはずですが、行こう行こうとおもっていたら「3・11」のためにそれどころではなくなり、行きはぐってしまったからです。
トークセッションで「3・11による“分断”。その状況下におけるアーティストとは」「見えないものを可視化するのが美術の役割」と語った高嶺さんが、どのような展示をされるのか（昨年夏、那珂市瓜連に実際に住んで制作）。思えば著書は読んでいても実際に大規模展は初めて（2010年、森美術館での「Baby Insa-dong」が高嶺作品との出会い）だったので、本当に楽しみでした。
当然ながら「クールジャパン」とはアイロニカルな意味で用いられています。国家が実際には“クール”でないときに用いられるのが同語であり、「クールブリタニア」「クールコリア」も同様でした。そして今、日本に「クールジャパン」を自称した片鱗さえないのではないでしょうか。そんな3・11後の日本を鋭く描き出したのが本展だと、会場に足を踏み入れて実感するのです。会場は「１：クールジャパンの部屋」「２：敗訴の部屋」「３：標語の部屋」「４：ガマンの部屋」「５：自由な発言の部屋」「６：ジャパン・シンドロームの部屋」「７：核・家族の部屋」「８：トランジットの部屋」に分かれています。
「１」ではショッピングセンターを思わせる象徴的イラストによってカオス的な消費社会が展開し、圧倒。「２」では原発・核燃サイクルの危険性を訴えてきた住民がことごとく司法判断によって退けられてきたことが、拡大された新聞見出しによって表現されます。会場のなかに一人佇む少女塑像。彼女から発せられる孤独感を、国民的に共有できなかったからこその原発事故であったと噛み締めます。「３」では美辞麗句的な標語がLEDで次から次へと表示される中、老人の塑像が立ち尽くします。しかし「絆」を強調した標語など、どれだけ実際の世界と結んでいたのか…。3・11を経て、その一部が実現したかもしれない。しかしそれはどこまで定着し、実体化しうるのか。
「４」では、会場に絶えず「ガマンしなさい」という音声が様々に流され、3体の塑像が展示されています。そのうち1体は手に線量計をもって、真剣に見つめています。恐らく被災地では「ガマン」が前提であり、原発汚染地域でも（茨城、そして東京もそう）、「食べて応援」など内部被曝を強いる国策に国民全体が晒されています。それは「６」にも通じていて、山口、関西、水戸で客が鮮魚店や弁当店など様々な店に食品の放射能汚染について尋ね、それにいかに店側が応対したかの再現劇が上映されています。関西、山口のそれがうろんな場合が多いのに対し、やはり被災地・水戸での対応はより意識的であると分かります。ただそれが必ずしも「安全」の証明には結びついていないのですが…
「５」では“自由”にネットで発せられる差別的、国粋主義的言説の一部が破れた紙に印刷され、アトランダムに照明によって照らし出される一方、その只中には祈るような姿をした女性の塑像が展示されています。「３」では標語によって「絆」が強調され、しかし「５」ではそれとは対照的な言説が実際には跋扈していることを証明しています。まさに3・11によってより強調された“分断”が、辛辣にここに顕在化しているのです。思えば「２」も、原発立地の心ある住民と、利権に取り込まれた住民、加えて多くの国民が“分断”されていました。国民を様々な手法で分断するのは政府が支配する常套手段であることを忘れてはいけません。
「７」では、米ソを中心とした核実験の記録（年月日、場所）と、高嶺家の変遷が家族写真によって長い廊下の両壁に同時に示される形で展示されています。夥しい「見えなかった核の歴史」が明示され、それとともに日本人も生きてきたのです。「核抑止力」という名の果て無き政治的パワーバランスは、今も北朝鮮の核実験へと地続きであることが実感させられます。核保有国に北朝鮮を非難する道理があるのか、米国の核の傘の下にいる日本がどうこう言えるのか？事実上破綻した核燃サイクルを日本がやめないのは、核兵器をいつでも開発・保有できる保障のためではないのか？非常にタイムリーな作品でありました。
そして「８」では、展示されてきた「塑像が脱ぎ捨てた衣服」が、暗い展示室の床に散らばっています。少なからず塑像の人々は苦しんでいました。懊悩していました。そんな彼らが脱ぎ捨てた衣服…。「１」でカオス的消費社会が提示され、「８」では「２」〜「５」の次の段階が始まったことを予兆させます。3・11後の日本がどう変革できるか、“分断”をどう乗り越えられるのか。「クールジャパン」という有名無実な自称を克己できるのか。しばらく反芻したいと考えます。
追記：カタログが3月半ばに出来上がるということで予約してきました。どのような出来になるのか、期待したいです。
高嶺格 とおくてよくみえない
在日の恋人
