May 20, 2015

日本人こそ観るべき映画  「国際市場(いちば)で逢いましょう」



 涙は涸れない、と映画を観てひさびさに実感しました。日本人である自分がこうであるなら、韓国の人々がどれだけ涙をしぼったことか。ほかの作品の上映前、予告編を観るまいといったい何度目をつむったか分からない「国際市場で逢いましょう」をようやく今夜、シネマート新宿で観ることができました。韓国では1000万人をゆうに超える観客動員をした作品です。ユン・ジェギュン監督、ファン・ジョンミン、キム・ユンジン、オ・ダルス、チョン・ジニョン、ユノ(東方神起)ら出演。

物語はプサンの港を見下ろす、屋上庭園らしきところでの老夫婦(特殊メイクのファン・ジョンミン、キム・ユンジン)の会話から始まります。おだやかな天気。彼らが経営しているのが「国際市場」にある雑貨店。そこから始まる回想は壮絶なものでした。戦闘機が飛び交う冬空の下、ハムギョンナムドのフンナムの町から逃げ出す人々。地名からして現在の北朝鮮ですから朝鮮戦争末期だと気付きます。中国軍が攻め込んでくる。沖合いからは次々と米軍艦船が撤退していく。人々は我先にとその軍艦に乗せてもらうとするのですが、その混乱の中で親子、兄妹の悲しい別れが起きてしまうのです。

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 以後、プサンでの戦後の勃興、西ドイツ鉱山採掘やベトナム戦争への出稼ぎ、南北生き別れ家族再会、海外への養子などの「韓国社会で思い浮かべられる“苦しかったあの時代”のイメージの集大成」(秋月望・明学大教授)が展開していきます。それぞれのシーンで、登場人物たちの思いがひしひしと伝わってきて落涙なしには観られません。思えば、「怪しい彼女」のマルスンの夫も西ドイツに出稼ぎに行って帰ってきませんでした。朝鮮史は高校で少し習いましたが当然、知らないことが多いのです。

 思うのは、これを韓国人が観るのと日本人が観る視点とでは違ってしかるべきだ、ということ。秋月教授も指摘するように、本作で描かれる美化された「つらかった歴史」には負の側面もあったということが肝心です。本作が大ヒットしたことは、どんなにスキャンダルや不祥事があっても倒れないセヌリ党のパク・クネ政権を支えているのではないか、と考えてしまいます。あの「ハンガンの奇跡」を成し遂げた大統領のお嬢さんなのだから、と(実際高齢者賞が強力な支持層)。

 一方、日本人こそ本作を観るべきなのだと強く考えます。日本の戦後復興で欠かせなかったのは朝鮮戦争特需です。お隣の韓半島で繰り広げられた悲惨な戦いが、戦後日本経済の起爆剤になったことをよくよく考えねばなりません。日本の戦後の歩みで負の影は原爆後遺症や公害ぐらいか(とはいえ大きい)。憲法9条のおかげでベトナム戦争への加担もしなくて済みました。いまだ韓国と北朝鮮は「休戦状態」にすぎず、同じ半島内で日本の中国残留孤児とほぼ似た悲劇が解消されていないのです。従軍慰安婦問題の未解決を思えば、韓国の「戦後」は本当に来ているのでしょうか。日本人として、胸に刻みたい作品です。
 

 


reversible_cogit at 00:14│Comments(0)TrackBack(0)映画 | 政治経済

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