October 2010

October 30, 2010

いつのじだいも




 本書を読むきっかけは加門七海先生の『大江戸魔法陣』でした。日光にゆかりある僧、それもかなりの呪術者として円仁が登場し、さらにちょうど今、仕事で周囲が円仁関連の騒動に巻き込まれていて円仁のそうした面はどんなかな、とググっていて発見しました。武光誠著『たけみつ教授の密教と呪術が動かした日本史』(リイド文庫←高円寺の駅から見えますね)。
 
 たけみつ教授の密教と呪術が動かした日本史 (リイド文庫)
たけみつ教授の密教と呪術が動かした日本史 (リイド文庫)
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 タイトルだけ見ると、ヒジョーにキワモノ系ですが、中身はれっきとした歴史書です。武光先生は現役の明学の教授です。これを読めば、最澄、空海にはじまる密教の歴史とその影響力、政治とのずぶずぶな関係がよく見て取れます。もちろん優秀な僧はいましたが、やはり権力は腐敗するもので、まさに生臭坊主が室町時代以降、量産されるさまが生々しかったです。ていうか、いまなんて妻帯している坊主ばかり。今は生臭坊主がふつうじゃん。

 実に文体が理路整然としていて読みやすい。と同時に、やはり学者先生ですから、一つの事象に対する考え方があくまで「その当時、そう思われていただけ」とします。加門先生もあくまで冷静に、元学芸員ですから分析的視点をもっていますが、加えて、加門先生ご自身が能力者ですので見解も自ずと微妙に違っています。本書は、呪術といより、密教儀式がどのような影響力をもったか、という見解に終始する本でした。でも、興味深く勉強になりました。

 で、今、やっと届いた加門七海先生の『平将門魔法陣』(河出文庫文藝コレクション)を読み始めているのですが、うれしいことが一つ。僕がそもそも将門様を頼りにし始めたのは、荒俣先生原作の映画『帝都物語』を観たからです。そしたら、加門先生も本格的に将門様に興味をもったのは『帝都物語』とのこと。やはり、水木しげる、荒俣宏、京極夏彦のお三方の偉大さは強調してもしすぎることはないのですね。



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October 29, 2010

協同の道、独自の道――東芝と伊藤園




 けさの日経で、単純には比較的できませんが好対照な記事が掲載されました。まず、一面、東芝・インテル・サムスンが協同して次世代半導体を開発する、というものです。

 まさにこの3社、世界の半導体のトップ3です。東芝にとって半導体は原発事業と並んでの二本柱の片方。西田会長が社長当時、半導体に集中投資する決断の模様は、NHKスペシャルで放送されたほどでした。そして現・佐々木社長が米ウェスティングハウスを買収し、東芝を世界トップの原発メーカーに押し上げました。原発はこれから新興国、東欧でも有望市場です。

 一方、半導体は水もの。もろに好不況の影響を受けます。また過当競争にもすぐ陥ります。かつ、開発投資は莫大。ですから仇敵と組むほど強いものはなく、東芝・サムスン・インテル連合で世界をやがて席巻するでしょう。この2年、毎月こつこつ少額ずつ東芝株を積み立てている僕にも朗報ですし、日本の産業界にとってもです(そう、iPhoneが売れれば売れるほど、東芝半導体も売れてラッキー)。東芝にとって、協同は生き残りになくてはならない選択なのです。

 そして伊藤園。同社がはじめてキリンを抜き、飲料業界で3位のシェアを占めたそうです。お茶はもちろん、買収したタリーズ・ブランドでコーヒー、紅茶を販売し勢いを伸ばしているとのこと。僕自身、キリンとは違って一切香料を使わずにあの風味を出す「お〜いお茶」の大ファンですし、ティーズ・ティーも大好き。野菜ジュースも家飲みは必ず伊藤園です。

 伊藤園の場合、タリーズ買収というステップはあるものの、お茶の生産体制のオリジナリティー、その地道な手法がいまにつながっていると感じます。協同や他社追随よりも独自の道こそが、伊藤園の味を守り、それはとりもなおさずトップの姿勢です。大規模投資が必要な半導体事業とは単純に比較できませんが、伊藤園には今後も、その道を歩んでほしいです。

 東芝、伊藤園、ともに気になる優良企業。みなさんもぜひ、ケータイはJALマイルフォンかiPhone、パソコンはdynabook、テレビはREGZA。くつろぎには伊藤園の飲料で一息ついてみてはいかがでしょう。

reversible_cogit at 23:59|この記事のURLComments(0)TrackBack(0)政治経済 | 新聞

October 27, 2010

パリを肴にどぜう鍋とパルフェ・フリュイ

 


 @駒形どぜう渋谷店

 @アルファ・カーメル渋谷マークシティ店


 par JALマイルフォンCA005 avec JALしろたん


 今宵は、今月初めに念願のパリ旅行へいかれた友人の舞台演出さんに、お土産話と写真を見せていただきました。職場では女性一人でパリ!といい意味で珍しがられているそうで。

 写真にはモンマルトル、シテ島とノートル・ダム教会、パサージュ、中世博物館、パリ市役所、リュクサンブール公園、オルセー美術館、オランジュリー美術館、ポンピドゥー・センター、そしてルーヴル美術館、オペラ座などなど。初秋のパリがつまっていました。アメリ・カフェも。

 僕も何度か訪れた場所ですが、やはり何度訪れても楽しいし、何度でも行きたい場所です。2月のフランス2泊4日旅の慌しさが、また思いだされました(笑) 

 待ち合わせは井の頭線渋谷駅の「明日の神話」前。そして食事は駒形どぜう渋谷店にさせていただきました。ほんと久しぶりで、おいしかったなぁ。〆はやっぱりスウィーツ、アルファ・カーメル渋谷マークシティ店でフルーツ・パフェをいただきました。ただ、駒形どぜう、オヤジ率(自分もか)が高すぎで悪かったです(笑)

 Paris,Bordeaux,et Bergerac en France 05022010-08022010


 Paris,Bordeaux,et Bergerac en France 05022010-08022010

 
 2月、パリ、ボルドー






October 24, 2010

JALしろたん仲間入り!&冷やかし!羽田空港新国際線ターミナル


 JALしろたん枕篇はこちら

  羽田空港新国際線旅客ターミナル
 羽田空港新国際線旅客ターミナル
 羽田空港新国際線旅客ターミナル


 きょうは羽田空港新国際線ターミナルへいってみました。まだJAL羽田―パリ、ホノルルなど、定期便は31日からなので本格供用はまだですが、大混雑。ぼくのように冷やかし組や、国内線利用者が立ち寄ってのことと思います。

 羽田空港新国際線旅客ターミナル
 羽田空港新国際線旅客ターミナル
 羽田空港新国際線旅客ターミナル
 羽田空港新国際線旅客ターミナル
 羽田空港新国際線旅客ターミナル
 羽田空港新国際線旅客ターミナル
 羽田空港新国際線旅客ターミナル

 羽田空港新国際線旅客ターミナル
 羽田空港新国際線旅客ターミナル
 羽田空港新国際線旅客ターミナル

JALシロタン×JALストラップ×JALマイルフォンCA005


 また天気も雨ですから僕にとっても撮影はまだ冷やかしです。ただ、こんな素敵なJALグッズを見つけてしまいました。しろたんというらしいですが知りません。でも、JALの衣を纏ったからにはもう我が家の一員です。JALマイルフォン×JALストラップ×JALしろたん!まだ抱き枕はおいでいただいていません(笑)

羽田空港新国際線旅客ターミナル
羽田空港新国際線旅客ターミナル
羽田空港新国際線旅客ターミナル
羽田空港新国際線旅客ターミナル
羽田空港新国際線旅客ターミナル


 夜ごはんは安いフレンチ(空いていたので)でおいしかったのですが、気になったのは「せたが屋」。世田谷に10年近く住んでいるにもかかわらず、まだその味を知りません。次回はぜったい!ほかにもお土産もよりどりみどり。JALマイレージWAONで買い物が出来、マイルも貯まります。来年はJALでホノルルかサンフランシスコ、ここから行きたいなぁ。



October 23, 2010

陳腐を超えて 廣木隆一監督『雷桜』



 廣木隆一監督『雷桜』を、新宿ピカデリーで観てきました。難聴がやばいのですが、木曜日の深夜に席をとってしまい、やむを得ず。

  いわゆる身分の差カップルの悲劇を描いた作品です。かたや公方の子ども、母の心の病の思い出で苦しむ清水斉道(岡田将生)、かたや元は庄屋の娘で、ある理由から片親(時任三郎)に山野で育てられた雷(蒼井優)。二人が出遭い、愛し合い、当然やってくる別れ。こうして個々の要素を見るとなんと陳腐でしょうか。

 しかし、個々はそうでも、それを補って余りある脚本、演技、演出が行き届いています。陳腐とは、よくある筋立て、ということ。それは取りも直さず、精巧に仕立て、抑制の効いたカタストロフィーの装置を、denouementを仕組めば強い。普遍化も可能です。この作品がそこまでの域に達しているとは、いいませんが。主人公が心にかかえるものがある、という廣木作品では『やわらかい生活』が傑作でしょう。
 
 筋を事細かにいうのは、それこそ陳腐なのでやめましょう。一つ挙げるなら、雷と斉道が再会を果たすシーン。雷の白い愛馬を挟んで語り合うシーンは映画的で素敵でした。そう、主演の岡田、蒼井の演技は特筆すべきでしょう。二人とも視線で演技が出来る。とりわけ蒼井は、『鉄コン筋クリート』のシロを思い出させる無垢と奔放で光る。

 ほか演技陣でいうなら、斉道を4歳から見守る御用人の柄本明(息子・佑も出演)と岡田は、『悪人』では仇敵同士。蒼井と岡田は『ホノカアボーイ』で喧嘩別れ。おもしろいです。また本作のダークサイドを代表する刺客に池畑慎之介。黒紫のオーラ全開!その部下に斉藤工。最近めざましいですね。そういえば雷の母を演じる宮崎美子、『悪人』でも母でした。かつて脱ぎシーンで売った宮崎さんも母キャラで定着です。情愛深き。

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October 22, 2010

渡辺なお・はんこ展「よっぱらい」@高円寺クルや



 今夜は仕事後、高円寺のクルやさんで開催中、はんこ作家のポン豆ヤこと、渡辺なおさん(友人のライター・ぱんさんのお子さんです)の「よっぱらい」展(展示延長〜今月末まで)にお邪魔しました。じつは前回展の際、「カラスを」とお願いしておりました、そして先日、改めて「八咫烏」をとお願いしたのでした。

 渡辺なお・はんこ展「よっぱらい」@高円寺クルや

渡辺なお・はんこ展「よっぱらい」@高円寺クルや
渡辺なお・はんこ展「よっぱらい」@高円寺クルや
渡辺なお・はんこ展「よっぱらい」@高円寺クルや


 お店はこじんまりしていて、なおさんともうそのお店では常連さんらしき方が来ていて、その方が楽しくていっぺんに最初に飲んだレモンサワーが回りました(笑) 

渡辺なお・はんこ展「よっぱらい」@高円寺クルや
渡辺なお・はんこ展「よっぱらい」@高円寺クルや
渡辺なお・はんこ展「よっぱらい」@高円寺クルや
渡辺なお・はんこ展「よっぱらい」@高円寺クルや


 で、くわえてノリのいいマスター(27歳ですが)とお客さんのお蔭で、なおさんにいろいろやっていただきました。ごめんさい!でも楽しい夕ご飯でした。ハンバーグ、650円でほんとおいしかったです。たくさん、なおさんの素敵なはんこも見せていただき、こんな素敵でかっこよすぎる八咫烏をつくっていただきました。来月には谷中で個展、またまた楽しみです。

 

October 20, 2010

マツコさん露出増でも




 はじめてマツコ・デラックスさんを目にしたのは、もう何年も前、実家に帰っていたときにたまたまチャンネルを変えたらテレビ埼玉(いまはテレ玉というらしい)で、おそらくあれはTOKYO-MXの『5時に夢中!』をネットしていたのだと思います。ギョっ、としたのを覚えています。僕も当時はあまちゃんでした。いまもですが。

 そして、どこかでマツコさんが同番組の月曜レギュラーと知り、以来、ずっと見ています。欠かしていません。とにかく頭がいいし、下品なことをいっても下品にならない。そこに、印刷物でしか知らないナンシー関さんを重ねていしまいます。そして、同じデブならあんなに切れ味鋭いデブになりたい、という憧れもあります。あそこまで巨漢になる勇気もないのですが。

 「JALは今の日本を象徴している」。JAL好きの僕にって、これほど目から鱗の指摘もありませんでした。利権構造の中で、自民党に食い物にされることにあぐらをかいた。まさにズブズブの関係は、票と公共事業をバーターにした自民党・小沢民主政治×地方の国民と同じです。結果、借金漬けで破綻です。JALは食い物にされたまま民営化され、食いつぶされてしまいました。日本国はどうか。

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  そんなマツコさんに目をつけたのはMXのほかにTBSは知っていました。しかし、今のCXのように大々的に消費のシンボルとして使うのは初めてです。おそらく、これも半年か1年。どうせCXはマツコさんを使い捨てにするでしょうし、マツコさんご自身も承知の上でしょう。TVはマツコさんにとってさえ、憧れのステージだったと忌憚なく話されていました。日テレで。

 ブームが終わればまた元にもどるだけだし、固定ファンは絶対に離れません。そう考えると、マツコさんほど手堅い経済効果的存在はないな、と思います。賢者は、どう料理されても、自ら鍋に飛び込んでも、変わらないですね。



 
 

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October 19, 2010

ほじょ犬の安心



 けさ、通勤途中で盲導犬と共に行動されている女性を見かけました。その盲導犬は、当然ではありますが賢そうで、毛並みも良くて、おとなしい。すごいな、すごいなって、感心するばかりです。

 一方で、杖でだけで行動されている盲の方はたくさんいらっしゃいます。慎重に、しかしてきぱきと行動されている方がほとんどです。そんな方々を見てハラハラする自分は不敬に当たると、いつも自戒します。余計なお世話です。

 しかし、それでも先日、井の頭線渋谷駅改札で、人の波に呑まれて改札を通れないでいる方がいたので、とっさに一番奥が通れますよ、と声をかけたら、返事をされて、でも不安そうに、なんとか人の波を縫って向かわれていました。先導できないのが我が意気地なし。もしここで、盲導犬がいたなら、こんなことにはならないし、見て見ぬふりの通勤客もそうはいかないはず、と思ってしまいます。

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 目が不自由でも、それを何倍返しにして働いている方はたくさんいるし、自分のような人間がどうこういうのはおこがましいと思います。でも、それでも、やはりほじょ犬全般が足りないのは明白です。僕みたいな貧者が少々の募金は続けていても、そんなのはたかが知れています。

 盲導犬の安心が欲しいです。ほじょ犬の安心が、多くの皆さんにいきわたって欲しいと思います。上川あや世田谷区議や、共産、社民、公明の議員さんも動いています。けれどやはりまだまだ。あの、人ごみで途方にくれた方の姿を思い出すと、これこそが世の中の意識なのかと思うと残念です。

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October 18, 2010

木皿泉のドラマ『Q10』




 守りたい存在があり、成し遂げたい復讐を胸に秘めた少年ルルーシュが「魔女」との契約で手に入れたギアスの力。そのギアスとは、彼の左目から発する力で、その目を見たものに絶対命令を実行させる力(『コードギアス 反逆のルルーシュ』)。しかし思います。このギアス、我々が、「常識」「みんながやっているから」と信じている何かこそギアスであり、我々の多くがそのギアスの虜なのではないか、と。16日土曜日から日テレ系ではじまったドラマ『Q10』第1話を見て、そう思うようになりました。

  
  木皿泉脚本『Q10』ポスター

  京王線明大前駅にて


  薬師丸ひろ子さんが高校に居候するスっとんだ科学者を演じている時点で、おぉ、と思い、白石加代子さんが登場するに至って、あ!、と思いました。『すいか』『セクシーボイスアンドロボ』の脚本、木皿泉作品だと、見はじめてから気づきいたのです。

 ほかの出演陣も凝ってます。主人公の高校3年生、深井平太を演じる佐藤健は、『龍馬伝』に続いて新たな段階に進んでいるようです。同級生に蓮佛美沙子、 池松壮亮、柄本時生。平太の父母に光石研、西田尚美。ほか教師に田中裕二(母の白石さんと二人暮らし)、校長に小野武彦。いまは寄り目でロボット勝負ですが、やがて前田敦子は今後どうなるか。

 木皿作品の特徴は何かと考えます。ふつう、どこか教訓めいたことをドラマでかたられると、へん、と思うのが僕の常です。たとえば、見てませんが『流れ星』のように「愛する女性の臓器移植がテーマ!」と謳い文句にして、お涙頂戴物語が展開される。実際に苦しんでいる方々が納得できる内容ならいいですが、美女とイケメンで固めたドラマに何をかを見出せるのでしょうか。しかし、それが木皿作品には感じられない。

 『Q10』の平太にも心臓の持病があり、胸には真一文字の手術跡があります。この傷こそ、彼がこの世界を一歩引いて見る大きな要因となっているのかもしれません。この作品はこれを「売り文句」にしていませんが、「当たり前」「常識」「みんながやっているから」というギアスさながらの壁を越えています。否、越えざるを得なかったか。

 そしてこの感覚は、まっさらなQ10はもちろん、平太と同じくの病を抱えるかつての同級生、いまは進級が遅れて2年生の久保武彦(池松)、髪を赤く染め、学校ではウィッグを着用しているロック少女の山本民子(蓮佛)といった彼らに通じています。ふつう、「恋人がロボット」系な物語において、その役割はすべてロボットが担いがちですが、本作は違う。

 彼らが語る言葉は、ほんらい我々がそうありたい、けれど難しい、と諦めている思い。同時に、そのストレートさは押し付けがましさとは一線を画し、我々一人ひとりが大切に手のひらで覆っているものを受けて入れてくれるのです。それは「人間だもの」という放恣とも違います。彼らには芯がある。だからこそ、それが清々しく、かっこいいと自ずと思える。映像も美しく支えます。『すいか』『セクシー〜』も、そこが魅力でした。居丈高にならない、媚びない、爽快な珠玉の台詞(いうなれば『渡鬼』とは対極)が紡がれます。これを、アイドルドラマ、と括ると大きな後悔をすることになるでしょう。





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October 17, 2010

陰影美術展 其の弐 「陰影礼讃」




 「藤城清治」展のあと、18日までの国立新美術館で開催中、「陰影礼讃―国立美術館コレクションによる」へ。独立行政法人国立美術館である、東京国立近代美術館、京都国立近代美術館、国立西洋美術館、国立国際美術館、国立新美術館のコレクションから、陰影をテーマに学芸員の皆さんが協同して作り上げた、素晴らしい展観でした。

 国立新美術館 陰影礼讃


 最初は冷静に観ていました。写真作品、アルフレッド・スティーグリッツの『ニューヨーク(シェラトン・ホテル西側より)」。ビルの壁面の影と、背景の建築中のビル。どこか寒々しいな、と思ったら撮影が1931年でした。黄金の20年代が1929年の大恐慌で終わりを告げ、現代のこの世界と重なります。戦争にだけは突き進んで欲しくありませんが。

 しかし冷静なのはすぐとけていきました…。その端緒は速水御舟の小品「秋茄子と黒茶碗」(京都国立近代美蔵)。金泥の上に深い光沢ある黒茶碗と、やわらなか秋茄子が描かれています。また額装なのですが、額内の絵の周囲には金糸と銀糸で織られた百合の紋章が…。ただただ嘆賞してみておりました。そんなことに気づいてしまうと、他の安井曽太郎、須田国太郎らの作品も見れば見るほどその技巧の斬新さであったり、特徴であったりが眼に飛び込んできて。

 そして本展、2大インパクトの一つ目と遭遇しました。秋野不矩『土の祈り』(京都国立近代美蔵)という、数少ないガラスケース入りの118.0×247.0の大作です。画面の8割は明るいです。描かれているのは土壁に古代の描かれた小屋があり、左手前に回廊がある。そこに、真っ黒い影だけで描かれた少女が立っているのです。その位置にいれば、全身真っ暗になるわけないのに。総毛立ちました。絵を見て、これだけの恐怖を覚えたのは初めてでした…。人間では、ない。儀式の隙間から、あちら側からやってきたモノ。こんな怖い絵を、なんで描いたのか…

 5分はいました。神経が過敏になっています。すぐ近くに展示された平山郁夫の「入涅槃幻想」がなんとちゃらく見えたことか…。それでも浅井忠の「編みもの」でやや落ち着き、ドーミエの風刺画で笑い、ロイスダールの風景で「オランダでのんびり1週間過ごしたい」とか思ったり。軸物で横山大観「暮色」、そして竹内栖鳳「宿鴨宿鴉」が対となってケースに入っていたのですが、夕暮れに心の平穏と、寂寥がないまぜになって。美しい。


国立新美



 と、そんな穏やかな気持ちは一瞬にして、インパクト第2弾で一瞬で吹き飛びました。次の部屋、またさらに大きいガラスケースに入れられた軸装、甲斐庄楠音『幻覚』(183.5×105.0、京都国立近代美蔵)。鬼に取り憑かれた派手な着物の女性が、身体をくねらせ踊っている。足首をひねらせて手の指先にまで緊張し、しかし顔はうすら笑い。遠目ではそうでもないのですが、近づくと着物の色はどぎつく、そのうつろな瞳は、まるで動いているようでした。  

 凍りつきました。息もできません。そこにいたのは5分くらいですが、体感は20分くらい。噴出する感情、その狂気。こんな作品、家にあったら死にますね。精も根も吸い取られ、死んでしまいます。たぶん、あれは女性ではなくて甲斐庄自身であり(写真も残っています)、あの憑かれた姿は、彼自身の心境だったのかもしれません…。いずれにせよ、このあとにも山ほど作品は並んでいたのですが見る気力なんかありませんし、比較になりません。この素晴らしい展観の数少ない欠点をいえば、順番が違ったかな、ということです。得がたい経験ができました。




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October 16, 2010

陰影美術展 其の壱 「藤城清治 光と影展」@銀座ウェンライトホール



 きょうはいろいろ歩き回りました。そして、期待の2つの展覧会は素晴らしかったです。

 まずは友人の舞台演出さんからチケットを頂いた、銀座の教文館、ウェンライトホールで開催中の「藤城清治 光と影展」へ。いろいろ彼女からおうかがいして藤城先生の奔放な生活と、展覧会入り口に掲げられた、大型犬を何匹も連れて散歩している写真は、なにかを象徴しているようでした。

  藤城清治 光と影展 2010
 

 しかし、そんな邪念は作品を見れば、作品の独立性がよ〜〜く分かりました。とても作品は有名なのでここで多くを書く必要なないと思います。それでも初期のモノトーン作品で、「人魚姫」はとりわけ素晴らしかった。海の波間から船上で遊ぶ王子を見つめる人魚。夜空には大きな花火が大輪の花を咲かせています。彼女が見つめる世界の華やかさと、彼女の裡なる世界は、まさに今、この灰色なのです。涙なしには見られませんでした。

 ほかにも、懐かしい『うぐいす姫』(たんすの中に小人の箱庭世界が広がっているお話)の不思議さ、切なさ。子ども用ではもはやないです。でも、こうしたお話こそ、子どもの心に刻むべき。影絵の世界だけ、子どもたちが元気で、泣いて、冒険していては仕方ない。

 一方、先生のご親類がなんとあの東郷健さんとのこと。ぼくもかろうじて、政見放送を覚えています。雑民党=デラシネです。そして先生は『THE GaY』という雑誌の表紙を描かれたということで、前衛的でカラフルな作品が並んでいました。『暮らしの手帖』表紙を飾った、女性たちの絵と双璧をなして本展の見どころかも知れません(笑)

 もちろん藤城作品の本領は、華やかな色、そして跳躍する子ども、動物たち。また、水鏡をつかった演出が「銀閣寺」「銀閣寺」に映えます。まさに光と影の美しさを堪能できる展覧会。22日(金)までです。





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October 15, 2010

ゆるく町は廻っているらしい。  新房昭之監督『それでも町は廻っている』




 TBS系で放送中、新房昭之監督『それでも町は廻っている』を不覚、第1話を見逃して、第2話から見ています。新房監督、現在、同時にTX系で『荒川アンダー ザ ブリッジ×ブリッジ』も放送中。どうなってんすかね。どんな生活しているのだろう。さすが『さよなら絶望先生』『化物語』の監督さんは… 

 オープニング曲、若くてしてすでにベテラン、坂本真綾さんが歌っている『DOWN TOWN』なのですが、友人も出演していて、ペットふかれています。撮影場所は鶯谷の東京キネマ倶楽部。僕もそのお友だちの公演でお邪魔したことある素敵な場所です。映画『シャイニング』のダンスホールみたい。

 さて、肝心なアニメですが、よくわからんですが「シーサイド」という古めかしい喫茶店のおばあさんのマスターが、メイド喫茶が流行っているということで近所の女の子を使って、自分もメイド服着て始めるというコメディです。大御所・千葉繁さんの声が久しぶりに聴けるし(いい味出した警官です)、そのマスターのおばあさんウキの声、なんと櫻井孝宏さん(ス、スザク)。すげぇ。ヒロインはソウルイーターのマカの声と、同監督『荒川〜』にも出演中。あ、ヒロイン役で坂本さんも出演中。

 それでも町は廻っている 1 (ヤングキングコミックス)
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 新房監督作品は雰囲気とテンポとセリフを楽しむものです。かなり笑えます。まだ僕もそこまで年はいっていなのでふだんほとんどないのですが、つい見ながら一人突っ込みを声を出して入れてしまいました……。こうやって、町とか、学校とか、大勢のキャラを巧く立たせて演出できるのはすごいな。今期、見るべきアニメが多くて幸福です。さぁ、日曜日17時は綺羅星☆!!

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October 14, 2010

はじめてのにほんしょき



 『日本書紀』を読むことにしました。しかし!もう、難読漢字だらけで、神様の名前だらけ。宇治谷孟編現代語訳版を読んでいても、なかなか厳しい。原文なんて不可能です。とにかく脈絡がない、一説には、一説には、と同じ内容の様々なバージョンが「神代」には書かれています。  

  日本書紀(上)全現代語訳 (講談社学術文庫)
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  しかし、たった26ページを読んだだけでも発見が次々と。まず、平成ガメラシリーズ第3作目で、勾玉を保存している損害保険会社の名前が八洲(やしま)損害保険会社。さらに今、書いてて思い出したのですが、『ヱヴァンゲリオン』で全国から電力を集めて使徒のラミエルをビーム砲で射抜く作戦が「ヤシマ作戦」でした。この八洲、男神・女神が交合して生まれたもので、淡路洲(出来がイマイチだったので吾恥島の字も)、大日本豊秋津洲(おおやまとあきつしま)、二名洲(ふたなのしま)、筑紫洲(つくしのしま)、億岐洲(おきのしま)と佐度洲(さどのしま)は双子なので二つで一つ、越洲(こしのしま)、大洲(おおしま)、吉備子洲(きぼのこしま)。 

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 また男神・女神が最初に産んだ不具の子(完璧PC違反)、蛭児(ひるこ)は、1991年の映画、塚本晋也監督、沢田研二主演の『妖怪ハンター ヒルコ』でおなじみでした。あの異形のバケモノは神の子だったんですね。

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 CX「ほんとにあった怖い話」の呪文で、「イワコデジマイワコデジマ」の呪文は単に「マジデコワイ」の逆さ読み(これ自体呪術的ですが)ですが、音がおそらく磤馭慮島(おのころじま)を連想させるからではないでしょうか。違うかな。

 そして鶺鴒(せきれい)。二人とも初体験の男神・女神が交合しようとしてもやり方が分からなくて困っていると、そこに鶺鴒が飛んできて見本をみせてくれたそうで。今、アニメで『セキレイ』ってやってるんですが、こっちもかなりセクシャルな描写(ま、エロアニメなんでしょう)が多いので、無関係ではないはずです。

 セキレイ 1 (ヤングガンガンコミックス)
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 など、こんな感じで読み進めています。いつ終わるか分かりません。ただ、加門七海先生の『平将門魔方陣』が届けばまたそちらに移りますが(笑)




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October 13, 2010

『東京魔方陣』と靖国参拝―A級戦犯分祀の意義



 加門七海先生の『東京魔方陣―首都に息づくハイテク風水の正体』(河出文庫―文藝COLLECTION)を読み終わりました。

  衝撃的な内容でした。前作、『大江戸魔方陣』で解明された、徳川家、否、天海僧正が熊野神社、八幡神社などを駆使し、寸分違わぬ結界を江戸に張り巡らし、その仕上げとして日光という要を置いた完璧さ。加門先生が綿密な現場検証、資料探索、そして恐らく先生がお持ちの霊力をも駆使した第六感によって詳らかにしてくださいました。

 東京魔方陣―首都に息づくハイテク風水の正体
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  そして本作、明治新政府が朝敵、徳川家の呪術を無効化し、利用する様が明らかにされます。一番驚いたのがやはり日光。日光は徳川家において聖地でしたが、新政府は同地を観光地化し、人でごった返している。ごった返すことで聖地は汚され、聖地は逆に徳川の威光を徹底的に抑え込みます。ほかにも様々な仕掛けがほどこされ、日光はもはや武士の力を封じる地となっています。また、積極的に今上天皇も、徳川・源氏の力を封じる儀式を行っているのです。

 また、CXは台場に移っては違うものの、河田町時代は、ほかのNHKを含めた在京キー局の正面玄関は鬼門に向かって開くというリスクを侵しつつも、すべて皇居・東宮御所に向かって口を開いていました(CXはその代わり、香港風水に則った建築物となっています)。皇居からの皇気を吸収し、電波に乗せ、全国に発信している。徳川家が東照宮を全国に造った比ではない影響力を持っていることは、みなさんお分かりと思います。

 その電波を発信する東京タワー自体、333mという呪術的に意味ある高さを誇り、かつ天海僧正の一番のライバルだった金地院崇伝の墓所に上に建ち、その気を送っている。まさに天海封じ、徳川・武士封じがなされているのです。ほかにもまだまだ、東京遷都を推進した大隈重信らと仲良しだった高島易団の創始者とか、前島密が郵便制度確立と共に徳川封じを行ったり。ほか鉄道網整備も含め、明治政府が行った政策がいかに陰陽道に基づいて行われたかが分かります。

 本作を読んで一番いま思うことは、靖国神社からさっさとA級戦犯を分祀し、総理と天皇家が参拝することが重要です(詳しくはお読みください)。加門先生は潔癖なぐらい反軍国主義ですし、僕もそうです。さすがに先生は政治家が靖国参拝すべしとはいいませんが、僕はこれまでの靖国神社への認識を改めました。この国難のとき、政教分離はさておき、英霊の加害者たるA級戦犯を分祀し、総理・天皇の靖国参拝のハードルをさげるべきです。

 そう、中国・韓国がなぜあんなに総理の靖国参拝に神経質かといえば、表面上は戦争責任の問題ですが、その裏にはあの風水と道教国家が見透かす理由があるのでは、と私見ですが考えます。つまり、政府が、日本が霊的、呪術的に強化される畏れがあるからなのです。英霊は国の犠牲者であり、神となっても慰めるには時間がかかります。しかし、為政者が率先して慰撫し、味方につければそれは強力な力となりましょう。死しても我が国の防波堤となってくれましょう。

 こんなに素晴らしい本なのに、文庫版の装丁がSFチックなのはいかがなものか、と考えていました。しかし、書いてることはかなり政治的にも影響力があること。売れてもらわねば困るけれど、あんまる売れるとそれまた圧力がかかってくるんじゃないか、なんて邪推してしまいます。読んでいて思うのは、ネットのデータセンターってどこにあるんだろうとか、東京スカイツリーの場所決定は実際どうなっているのか、とか。初版は1994年ですが、今日性がありありの傑作です。

 東京魔方陣―首都に息づくハイテク風水の正体 (河出文庫)
東京魔方陣―首都に息づくハイテク風水の正体 (河出文庫)
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October 12, 2010

松本君と遭遇@五反田  




 今夜、職場を出たのが19時40分ごろ。あ〜〜もう少しで、BSJAPAN『だいすけ君が行く !! ポチたま新ペットの旅』が始まるな〜でも録画しているから大丈夫〜〜〜と思っていました。ここでも何度も書いてますよね。

daisuke
 

 そして乗り換え駅の都営浅草線五反田駅で下車すると、すぐ目の前に、同番組の、あの松本君こと、松本秀樹さんが歩いていました。もう、その背中からは疲れています〜オーラが。リュックを背負い、片手にはおみやげらしきものを、もう片手にはよれよれぱんぱんの番組制作会社の袋をもっていました。もう、ロケ帰り!!って感じで。同駅は羽田からの京急が乗り入れてますから。あのだいすけ君の手綱を握るのはさぞや大変でしょう。

 で、疲れていそうだから声をかけるのをどうしようかなぁ〜と逡巡していたのですが、イヤ、疲れているからこそ、声をかけようと。で、「松本さんですか?いつも録画して見ています」と声をかけますと、「はい松本です。はじめまして!!」、それまで疲れていた表情がパッ!と消えてあのどんぐり眼をこちらに向けて、それはもう元気に丁寧に応対してくださいました。やはりロケ帰りということでした。お疲れ様です!もう、すぐに退散したのですが、感動でした。

 これまでも、まさにそのときWALKMANで音楽を聴いている作曲家(池辺晋一郎先生)や、指揮者(バッハ・コレギウム・ジャパンの鈴木雅明先生)に街中で出会ったりなどなど、してきましたが、まさか次は松本君とは(笑)。しかし、毎週僕に笑いと癒やしを与えてくれる大切な番組のプレゼンターです。光栄なことです。




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October 11, 2010

ふたたび飛び立つために  ウニー・ルコント作品『冬の小鳥』




 神保町―市谷


 母校のもう一つの街、久しぶりの神保町。同じく久しぶりの岩波ホールです。ソウル出身でパリ育ちの女性監督、ウニー・ルコント作品『冬の小鳥』(Une vie toute neuve、直訳すると、全きある新たな命)を観ました。満席。

 神保町―市谷


 神保町―市谷
 

  1975年、韓国。父親(ソル・ギョング)にお泊りだといわれ、片田舎にあるカトリック系孤児院に連れてこられたジニ(キム・セロン)。それまでニコニコしていた彼女は、いっぺんにだんまりとなってしまう。それでも最初、彼女につっけんどんだった年長の少女、スッキのある秘密を知り、それがきっかけで二人は仲良しに。スッキはアメリカ人の養子になることを望み、ジニは残りたいという。父親が迎えに来ることを頑なに信じているから。足に小児麻痺があり、ずっと院で暮らしお姉さんの役となっている最年長のイェシン(コ・アソン)が出入りの青年に恋をし失恋する。寮母(パク・ミョンシン)の真の厳しさと優しさに胸打たれます。そうした中、それほど長い月日でない時間に、ジニの心は様々に揺れる。そんな冬の日、死にかけた一羽の小鳥を見つけ、スッキと助けるのですが。

 ポスターにもなっているヒロイン役(監督自身の分身です)、キム・セロンの写真を新聞評欄で見て、彼女の美しさが作品の世界観を象徴するようで、それだけで観ることを決めました。せっかくなので梗概や評は読まず。結果として正解でした。丁寧な映画でした。演出が素晴らしく、音楽もピアノを基調として穏やかに、広がりを持ってジニの心の漣を見事に表現していました。傷ついた小鳥は死ぬ運命です。同様に、ジニも傷ついている。彼女がどう、ふたたび生きることができるのか、彼女なりのショッキングなマニエールを、われわれは静かに見守ります。そして、良かった、と胸をなせおろす。

 院の子どもたちが、毎週少しおめかしして出かける街の教会の神父の説教で、まだ落ち込んでいるジニの耳に「父よ、なぜ私をお見捨てになったのですか」というキリスト十字架上の言葉が響きます。神父はその言葉にこそ、キリストの人間性が示されていると語ります。彼女が、自分が孤児院に連れてこられたと原因と思い込んでいる理由もまた不条理。親に捨てられた子どもたちは不条理の嵐の中で、必死に立っている。たまたま夕方見たニュースの特集で、東尋坊に自殺に来た青年も、聴けば聴くほど悲しい家族関係の現実と、自らを追い込む中でその場所のに来ていました。彼が、ジニのようなマニエール経ることが出来るか。最後の、自転車の荷台に乗せられたジニが、父親の背中の温かさを思い出すシーンの明暗が、今も脳裏に焼きついています。頬に感じるジャケットのざらざら感、におい…

  歩いて神保町から市谷へいってみました。
神保町―市谷


神保町―市谷


神保町―市谷


神保町―市谷


神保町―市谷


神保町―市谷


神保町―市谷




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October 10, 2010

狗神つくり



 犬が顔だけ出して生き埋め 富山の土手(毎日.jp)

 富山市興人町の運河の土手で9日午後、犬が顔だけ出した状態で土に埋められているのが見つかり、通報で駆けつけた消防署員と警察官が保護した。富山県警富山中央署は悪質ないたずらとみて、動物愛護法違反(虐待)容疑で調べている。
 同署によると、犬は体長約1メートル、体重約30キロの雑種とみられる雄。全身を横向きにされ、体の上に高さ70〜80センチの土が山のように盛られていた。9日午後2時5分ごろ、犬が盛んにほえる声に通行人が気付き、通報した。ぐったりしていた犬は現在、署でドッグフードを食べ、元気に回復しつつあるという。【岩嶋悟】


 これは、狗神をつくる工程の途中ではなかったのではないでしょうか。
 
 犬を首だけ出して土中に埋め、口の届かない場所に食物を置き、ぎりぎりまで飢えさせる。そして、犬が主人を恨みに恨んで餓死する寸前、その犬の首を切り落とし、神として祀ると言われている。 
 加門七海『江戸TOKYO 陰陽百景』p.47(講談社) 

 先日、アニメ『ぬらりひょんの孫』を見て、狗神(cv岡本信彦)が人間の姿から真の姿に戻ったとき、首だけが飛んで攻撃するのを見て、あぁちゃんと守っている、と思いました。
 でも、このワンくん、拷問死の果て、使役霊獣となって死ねぬままこき使われるずに良かったですね。





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古墳で深呼吸  芝丸山古墳、円山随身稲荷大明神



 きょうはテレビで知った梅丘の美登利寿司が運営する、回し寿司「活」の目黒店へお昼に行ってきました。美登利寿司がかかわると、どこでも並んでますね。ここから歩いて10分で本店なんですが、並ぶのを考えると足が遠のきます。

 美登利寿司 回し寿司「活」目黒本店
 

 しかし「活」は回転寿司、ということで多少並んでも安いなら、と思いました。ところがです。美登利寿司もその傾向はありますが、こうヒト手間加えたお寿司が流れてきます。あぶってあったり、味噌が塗ってあったり。うまい。なかでも「エスカルゴ風」とかいって、ホタテの上にエスカルゴのソース風味のバターがかかっていて、おいしかったです。ただお祭り気分に乗せられて、完璧に予算オーバー。Suicaでその場は切り抜けました…

 さて、最近ご挨拶を怠っていた(でもいつも心にあります)将門さまの首塚へお参りし、取って返して、加門七海先生の『江戸TOKYO 陰陽百景』(講談社)で紹介されている聖地を巡る旅第二弾を。前回は小野照崎神社、北野神社でしたが、本日は芝公園にある23区最大の古墳、芝丸山古墳を訪れました。雨も上がり、晴れ間がきれいに出てきました。ざくろの実がたわわに実っていました。

芝丸山古墳


芝丸山古墳


芝丸山古墳


芝丸山古墳


芝丸山古墳


芝丸山古墳
 

 確かに大きい古墳でした。当初は前方後円墳だったものの、徳川幕府が崩し、そこに菩提の墓を建てたそうです。かつての豪族の霊力を抑え、徳川家に従わせる。また、そもそも当地は風水的に優れた土地であり、ゆえに333mという、これも呪術的に意味のある高さで建てられた東京タワーや増上寺がおわします。

芝丸山古墳


芝丸山古墳


芝丸山古墳


芝丸山古墳


芝丸山古墳


芝丸山古墳


 うっそうと茂る木々の中に、「円山随身稲荷大明神」がいらっしゃいました。標識の通り、歴史ある御稲荷様です。傾き始めた日差しの光が、お社と幟に映えて、本当に美しかったです。ご挨拶し、写真を撮り、次の瞬間にはもう光は失せていました。麗しい姿をお撮りする猶予を頂戴し、感謝の気持ちでいっぱいとなりました。古墳に上ろうと踵を返すと、区の職員さんが公園の利用状況のアンケートを、と話しかけてきました。チェック項目式で。訪問理由に「お参り」がないのはいかがなものか!

芝丸山古墳


芝丸山古墳


芝丸山古墳


芝丸山古墳


芝丸山古墳


芝丸山古墳


芝丸山古墳


芝丸山古墳


芝丸山古墳


芝丸山古墳

 
 さて、蚊に刺されながら古墳をのぼっていくと、そこには伊能忠敬の測量遺功碑がありました。わんくんを散歩させる女性もいました。そして、カラスが楽しそうに日光浴をしていました。見上げれば、加門先生のお言葉通り、みっしりと木々が茂っていました。「木は気に反応する」そうです。確かに、遮るものも無いのに木々は枝を上に伸ばさず、この土地自体を覆っていました。

芝丸山古墳


芝丸山古墳


 木々の間から、近くには東京プリンスホテルのタワーや東京タワー、はるけきは総務省の入るビルも。こんな都心、否、呪術都市東京の都心だからこそ、こうした場所があるのです。深呼吸。ほんとうに清々しい心もちとなりました。帰途、東照宮にご挨拶だけして(僕の主は将門さまですが、ご挨拶は必要です)、帰途に就きました。秋晴れが、完全に戻ってきていました。

江戸・TOKYO陰陽百景
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October 09, 2010

小泉八雲と日本文学  県立神奈川近代文学館「ラフカディオ・ハーン 小泉八雲展」&東雅夫氏講演会




 きのうは仕事で根津美術館の「南宋の青磁」展の内覧会へお邪魔し、きょうは趣味と仕事をかね、お世話になった県立神奈川近代文学館「ラフカディオ・ハーン 小泉八雲展」、横浜美術館「ドガ展」へ足を運びました。秋雨も心地よく。けっこう降られましたが(笑)

 メーンは横浜市の「港の見える丘公園」内・県立神奈川近代文学館で開催される、東雅夫・雑誌『幽』編集長、アンソロジストの講演会、「小泉八雲と日本の怪談」です。東氏は、加門七海先生も連なる「実録怪談」分野の雄。最近はNHKでよくお顔を拝見しており、今年のNHKBS怪談夜話のアドバイザーも務められました(昨年は話者として加門先生が登場していました)。

 
 県立神奈川近代文学館
ケータイ、JMP-CA005で撮影
 
 さて、小泉八雲ことラフカディオ・ハーン(1850-1904)といえば『怪談』です。しかし展覧会ではそれに限らず、ハーンの来日前のアメリカ、クレオール時代での新聞記者、文学者活動を紹介し、さらに来日後は松江、熊本での教師生活、そして東京での帝大英文科教授時代の様子もしっかり文献、写真を交えて解説されていました。ハーンの後任が夏目漱石だったそうです。

 それを踏まえ公演は、東氏自身の小泉八雲初体験から今の職に至ったお話から。名翻訳家として知られる平井呈一氏版『怪談』との出遭いがあり、今の自分があると。ハーンが子どものころからかなりの「怪談」好きであり、実際に怪異体験もしていることを豊富なエピソードで紹介。新聞記者時代には今でいう「東スポ」的な体当たり心霊記事や猟奇殺人連載記事を書き、名声を得たとことや、松江での節さんとの出会いがあってこそ、『怪談』は成立しえたと指摘しました。

 求められるがまま教養ある節さんが幅広く怪異譚を蒐集し、それをハーンに語り、それを彼がまとめる。ふたりの細かなやりとりがあってこそ、素晴らしい、日本の風土に根ざした物語集が完成したのだと。片方が集めた物語を語り、それに一方が突っ込みをいれブラッシュアップする。現在の『新耳袋』制作過程との共通点も挙げました。たしかに、そうした段階で怪異現象が起きていることを同編者、木原浩勝氏と中山市朗氏との逸話をDVDで観たことがあります。

 ぼくの小泉八雲初体験は、NHKのドラマ『日本の面影』。:檀ふみさんが節さんを演じていました。再現ドラマの『幽霊滝の伝説』をはっきりと覚えています。小学校の図書室でも、さまざまな怪談話を読み漁りました。一番印象に残っているのは、題名は忘れましたが、寺男にいじめられた小坊主さんが死しても毎晩高台の寺の灯をともし、それを離れて暮らしていた親が訪ねてきて見る(殺されたことを後で知る)、というお話です。こんな悲しいお話はないと。あとは「鳥取のふとん」。きょう東氏が言及して急に思いだし…涙。

 ところが今の子どもたちは80年代に流行った『学校の怪談』ブームで、小泉八雲の『怪談』を知らないそうです。ここでも文学性は商業主義に奪われたか。ハーンの完成度の高い翻訳全集が出版されたのは、彼が帝大英文科で教え、芥川龍之介をはじめ、その門下生たちがハーンの、日本の風土に根ざし、機微に触れる文学としての「怪談」を愛したからとの東氏の指摘は目から鱗でした。怪談の本質とは、怖い、に潜む悲しみであり、不合理であり、日本的な抒情です。だから芥川、室生犀星、川端康成ら、文豪たちも怪談に挑んだ、と。そうした物語が今、足りなさすぎな気がします。それでも、加門先生の体験談はそれに近い。だから大好きです。

 怪のはなし
怪のはなし
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reversible_cogit at 23:23|この記事のURLComments(0)TrackBack(0)展覧会 | 書籍

October 08, 2010

噂は本当、より深く強靭に 加門七海『大江戸魔法陣』



大江戸魔方陣―徳川三百年を護った風水の謎 (河出文庫―文芸COLLECTION)
大江戸魔方陣―徳川三百年を護った風水の謎 (河出文庫―文芸COLLECTION)
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家康公、家光公を駆使して(生前も死後も)、
天海上人が造り上げた、江戸を、為政者を何重にも守護する結界が、
江戸の各地に建てられた、今も残る神社や寺によって構築されていることが
詳細に解き明かされる。

ひとつの政権が300年続くということはやはり「ふつう」でないと思ったほうがいい。
それにはもちろん鎖国制度があったのだけれど、
それを固めた家光が、
天海上人の教えに則って日光を造営しているのは偶然ではない。

江戸は霊的に、呪術的に守られているといえば眉唾と思う人も多いと思う。
しかし、実際、加門先生が実地に調査し(祀神の意味から建立の年まで)、
そこから顕れる正確な二等辺三角形や直線にただ驚くばかり。

どこぞの番組でフリーメーソンうんたらといっているけれど、
もっと我々が暮らしているこの地に目を向けたほうがいい。
実際、東京の天災が少ないのは事実ではないか。

ぼくも日光にいってみたい。もちろん何度か足を運んだことはあるけれど、
彼の地が関東守護の枢要の地となっていることは新たな認識だ。
そうした崇敬の念をもってたずねたい。

さて、つづく『東京魔法陣』には何がまっているか、楽しみだ。
この世界が、見えるものだけで構築されていると信じたい唯物論者は、
こうした「事実」をどう無視するのかなぁ。

※まったく別ルートから知った、
相当な心霊スポットということで有名な赤羽岩淵が、
実際に、東京の守護の端の端で、
風水計画的に悪いモノの吹き溜まる(堰き止める)ようになっている場所と、
本書冒頭で知りました。
合点、合点、よ〜〜く分かりました。

October 07, 2010

みんなの党が少数意見を抹殺



 レンホー大臣のポーズなんて、どうでもいいことです。先ほど、恐ろしいことを知りました。あすからの参院本会議で代表質問権に規制が入ったとのこと。代表質問の権利は無所属でない限り、小会派でも権利がありました。とりわけ参議院は多様な政党がこれまでも活躍してきました。第二院クラブ、税金党、スポーツ平和党、平和・市民などなど。参議院の機能とは、まさに民意の多様性の反映にあるのです。

  しかし、今国会で共産、社民、たちあがれ日本・新党改革は質問権を剥奪されました。なんと、みんなの党の発案だそうです。つまり、自分たちより議席が少ない政党は、つまり少数の民意は政府に対する発言権がない、というに等しいのです。先日まで1議席だったみんなの党が、今回の選挙の結果だけを受けての暴挙です。

  もう、予感が的中しました。今年の参院選、みんなの党しか改革は出来ない、と僕も考え、松田公太参院議員の選挙活動初の演説会にも足を運びました。しかし、演説や、選ばれていく候補者たち、その支持者の様子を見ていると、だんだんあやしくなってきました。この人たち、たんに富裕層が次に欲しい権力に群がっているだけではないのか…

  川田龍平参院議員もみんなの党入りしてから変わりました。メルマガには党中央から下りてくる批判一色。しかし、それが彼の持ち味とは到底思えません。ましてや少数政党の発言権剥奪など、川田議員の胸のうちはどうなんでしょうか。いまや、みんなの党は富裕層が陥りがちな、選民思想集団となってしまいました。それでも国民は支持するのでしょうか。するんでしょうね、みんな、勝ち馬に乗る国民性ですから……

reversible_cogit at 21:46|この記事のURLComments(0)TrackBack(0)政治経済 | 新聞

October 03, 2010

傑作アニメ、颯爽登場! 『STAR DRIVER 輝きのタクト』



 『バイオハザード? RESIDENT EVIL』3D吹替(3Dは吹替えに限る、という教えていただいた教訓をずっと守っています)を渋谷シネパレスで観ました。なんというか、ゲームが出来ない僕は想像するしかないのですが、こう、いくつかの階梯をのぼる事自体がこの作品の主眼のようでした。この調子だと、5でも、6でもいきそうです。ちなみに3は好きです。

 渋谷から物語が始まり、アンブレラ社の地下要塞がある、という設定なのですが、あの地下鉄やら地下道が張り巡らされている渋谷の地下に何をどう造るのか。まずそこから何か大きく間違っている気がしました。リアリティが中途半端なのはいけません。途中、『サイレント・ヒル』のキャラがなんで出てくるのか分かりませんでしたが別物なのかな。

 「きょう18人だぜ」と、僕の前方に中1くらいの男の子たちが集団で観に来ていましたが、途中で一人がPSPでサッカーゲームをしだしました。ふつうだったらムっとするのですが、この年代の集中力のない子たちが、このたるい話に集中できるワケがないと納得してしまいました。あと僕には、やはり拳銃ドンパチよりも殺陣が好みだと昨晩明確に意識しましたし。

 

 そして夕方、その噂は半年前から知っていて、BONESが総力を挙げて作っているという『STAR DRIVER 輝きのタクト』がスタートしました(MBS・TBS)。

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 いや、すごかった、楽しかった、かっこよかった、生きててよかった!!!

 BONES×MBS竹田P×五十嵐監督×榎戸脚本×CV宮野真守に、アニプレックスの勝股Pを加えて、サイコーの娯楽作品が颯爽登場です。あのテンションの高さ、あのしらふだったらこっぱずかしいセリフも、榎戸さん脚本で宮野さんの声で叫ぶなら、なにがハードルとなりましょう!初回30分のあの充実振り、2000円も払ったバイハザに金返してほしい。

 映画『コンタクト』でとても重要なシーン、異星生命体によって再現されたペンサコラの海岸の美しさが、まるで鏡映しのように冒頭に登場しました。ぜったいあれはそう、と断言できます。また、これからどんどん設定は明らかになるでしょうが、過去の榎戸×BONES作品で、DVDBOXも持っている『ラーゼフォン』を彷彿とさせます。あのくら〜かった『ラーゼフォン』が、坂本真綾からバトンタッチされた戸松遥された聖なる歌声に乗って復活したのでした…

 ひさびさに感涙しました。毎週、こんなエキサイティングな経験が待っている。同時間帯は『コードギアスR2』の放送時間帯(=MBS枠)でした。この時代に生きていてよかった、本気でそう思えます。今また、新たな金字塔が世界のアニメ史に打ち立てられるのです。




 

reversible_cogit at 23:48|この記事のURLComments(0)TrackBack(0)アニメ | 映画

4つの視点から観る三池崇史監督『十三人の刺客』



 胸がいっぱいで京王線の中では何も音楽を聴く気分になれず、明大前駅から家まで、急にヴィヴァルディの激しいソプラノのアリアが聴きたくなり、WALKMANを起動させればぴったり。すさまじく見応えのある作品を観た幸福感が、さらに高揚しました。2日21時30〜24時の回で、三池崇史監督、天願大介脚本の『十三人の刺客』を新宿ピカデリーで観ました。

 13asaこの作品の見応えは何かと考えたとき、4つのポイントになるのではないでしょうか。?政治性、?映画美としての叙情性とエロス、?徹底したアクション、そして?俳優のキャラの立ち方。これらが見事に連関し、『クローズゼロ?』『ぼっけえ、きょうてえ』『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』『46億年の恋』など、これまでの三池作品のいいとこ取り、のよう。

 まず?政治性。まずこの物語が「広島長崎に原爆が落とされる100年前」という字幕から始まり(海外上映を意識してでしょう)、「23年後に江戸は明治政府に変わった」という言葉でしめられるに象徴されています。間もなく老中に就かんとする将軍の異母弟、明石藩主松平斉韻(稲垣吾郎)は残虐の限りを尽くしている。老中土井大炊頭(平幹二朗)は「天下正道のため」暗殺を御目付役の島田新左衛門(役所広司)に命じる一方で、その殿を戴き、新左衛門に旧知の仲でもある明石御用人鬼頭半兵衛(市村正親)は、藩主の暴虐非道を知りつつも、武士として、侍として何が何でも守り通そうとする。

 つまり、徳川幕府は倒れる寸前であっても、その支配体制は磐石であり、それを脅かすものは自浄能力によって排除しようとする(自民党内の派閥抗争に重なります)。同時に、民主主義であれば選挙で落とせばいいトップも、何百人という命の犠牲を払わなければ代えられないシステムの不合理さ(昨晩観た『大奥』においても権力の不合理性は強調されます)。翻って現代、原爆を落としてまで守れたものは何か、果たしてせっかく選挙で変えられるシステムが、その結果も含めてまともに機能しているのか、大きく問うてきます。

 ?映画美としての叙情性とエロス。これはあるシーンをご紹介したい。それまで博打と酒で気を紛らわし、武士としての生きがいを探していた新左衛門の甥、新六郎(山田孝之)が、ある説得を受けて暗殺計画に参画する決意を、ただしばらく留守にする、という言葉のみで芸妓お艶(吹石一恵)に別れをつげる明暗の世界。この作品に出演する女性は数少ないのですが、皆歴史考証に則ってびっちり白塗りをしているのです。室内の、小さい行灯に照らされる新六郎と、暗闇に白く浮き上がるお艶の、別離という、見えない隔たりに分かたれた美しさ。あまりに美しく、切なくて泣きました。

 また、刺客となる面々は同じ門下で競う仲間や、刺客となって意気投合したであろう仲間(高岡蒼甫、石垣佑磨)であったり、師匠とその唯一の弟子(伊原剛志、窪田正孝)であったり、端々に衆道の契りがあることが、それが当時は当然であったのだけれど、表情の一つ一つで描くのは三池監督らしい。

 ?アクションもまたこの作品の締めを飾る見どころ。延々と続く決闘シーンは、かつて驚いた『あずみ』のいったい何倍のスケールか。また比較して悪いですが、きのう観た『大奥』の殺陣のヘナチョコぶりに辟易していたので、真剣勝負の美しさは、アニメ『シグルイ』や『ストレンヂア 無皇刃譚』に引けをとらない素晴らしさ。太刀筋の美しさは、それ自体で完成された鑑賞物であり、神への奉納物であると再確認します。この長大な殺陣シーンはやはり劇場で観ないと。

 そして最後、?キャラの立ち具合です。役所×市村の知略と剣の交わりは、そのまま二人の造形となり、刺客の古田新太、六角精児の個性派が緩急を生み、山の人間という、最後はさながら山の精となったかのような伊勢谷友介は別格。『クローズゼロ』シリーズに続く、山田は擦り切れ寸前の武士の悲哀と底力を、高岡は今度はスマートな男気を演じて魅せました。

 しかしです。今回なんといっても、この人をなくしてこの作品はなかったのが、稲垣吾郎ではないでしょうか。さながら和製ネロ帝の出現です。これまでもエキセントリックな役をこなしてきたのは記憶にありますが、とにかく今回はすごい。ほとんど瞳孔が開いているんじゃないかと思いました。正気と理知を備えつつ、狂気の淵を歩いているとしか考えられない残虐と女犯への執着、そして最期のあのザマの…凄みです。いや天晴れ。香取が『座頭市』、中居が『私は貝になりたい』で酷評を得て、キムタクが『宇宙戦艦ヤマト』…。一方、草なぎが相次ぐ舞台作品で頭角を現し、稲垣がこのお殿様。なんだかSMAPも力量の差が歴然としてきました。

 ということで、もうしゃぶりつくせるほど観どころ多い、『十三人の刺客』。ほんと、おもしろかった。

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